ヨーロッパ中の国々が、次々と新型コロナ対策として大胆な措置に踏み切る中、唯一スウェーデンは、他国に倣うことなく現在に至っている。それを取り上げた、2020年3月28日付のニューヨークタイムズの記事によると、その背景には、国民の、社会や国に対する大きな信頼感があるという。
ニュース記事より、個人的な話だけ知りたいと言う方は、以下の目次より最後の「ホクオのコロナ・ナウ」をクリックしてジャンプしてください。
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以下は、The New York Times、”In the Coronavirus Fight in Scandinavia, Sweden Stands Apart” March 28, 2020 の部分的拙訳。(見出し、強調文字はホクオによる。)
コロナ制限をしないことで目立っているスウェーデン
コロナの波が、スカンジナビア半島にもやってきたのを受け、ノルウェーもデンマークも国境制限を設けたりレストランや学校を閉鎖しているが、スウェーデンは、今のところ独自の道を貫いている。
レストランも学校も閉鎖されていないスウェーデン
デンマークやノルウェーでは国境が封鎖され、レストランもスキー場も学校もすべて閉鎖、生徒は自宅にこもっているよう要請されている一方、スウェーデンで閉鎖されているのは、高校や大学だけで、幼稚園も小・中学校も、パブもレストランも開いている。国境にもスキー場にも制限はない。
スウェーデンのこのアプローチを、新型コロナウィルス感染症に対するギャンブル行為と見るか、あるいは、賢い戦略と見るか、議論の分かれているところである。
コロナ感染者の統計的数値
この記事が書かれた土曜日(2020年3月28日)までに、ノルウェー(人口530万人)では3,770人の感染者(死亡19人)、デンマーク(人口560万人)2,200人(死亡52人)に対し、スウェーデン(人口1,012万人)では感染者3,060(105人)が報告されている。
デンマークはスウェーデンを批判したが
デンマークの新聞Politikenには、ヨーロッパのあちこちから上がっている声をまとめた「スウェーデンはコロナの危機を深刻に捉えていないのか?」という見出しの記事も出た。
スウェーデン人がコロナを甘く見ているわけではない。首相や保健当局は、手洗いの徹底や人と物理的距離を空けることを強く呼びかけているし、70歳以上の高齢者への配慮もしている。
とはいえ、ストックホルム市内のカフェをのぞくと、複数の人たちが集まって気軽に食べたり飲んだりしている。公園にははしゃいで走り回る子供たちがいっぱいだ。レストラン、ジム、ショッピングモール、スキー場など、ふだんよりは人が少ないとはいえ、営業中である。
コロナウィルスに対するスウェーデンの方策
国家疫学者のAnders Tegnellは、インタビューに答えて「スウェーデンの方策は、あくまでも科学に準じ、感染の拡散を防ぐための努力は十分に行いながら、患者が発生したときには収容対応が可能な状態になっています。」と言った。
個人の節度と責任に任せるのがスウェーデンのやり方で、「スウェーデンでは伝染病制御のシステムも、すべて個人の自発的な行動を基礎にしているのです。」とTegnellは言う。
「国民に選択肢を与え、国民は自分たちに何がベストかを自分で決めるというやり方が、経験上、うまくいくのです。」と。
スウェーデン方式は、厳しい方策を打ち出しているほとんどの他国に対抗していると言える。インドは13億人に影響を与える封鎖をしようとしているし、ドイツは家族を除く2人以上の集まりを禁止、フランスは自宅を出る度に、その都度、理由書の提出を求め、イギリスは住民が自宅にこもるよう警官を配置しているのだ。
スウェーデンもこの先はどうなるかわからないが
他と外れたスウェーデンのやり方が、どんな結果を招くかはまだわからないし、スウェーデンもこの先の状況次第では、他国と同様にもっと強固な方策を取ることになるかもしれない。
ただ、現時点でのスウェーデンの方策の根底には、国民の社会に対する高い信頼と、政治が保健当局などの行政機関に介入することを禁ずる厳しい憲法があると専門家たちは指摘している。
「だからこそ、細かい規制や、制裁、罰金、逮捕などの脅しを通して個人の行動をマイクロマネージメントする必要はないのです。そこが、スウェーデンが、お隣のデンマークやノルウェーと違うゆえんなのです。」と歴史学者のLars Tragardhは言う。
この英文記事はまだ続くので、興味ある方は、ご自身でお読みください。
The New York Times “In the Coronavirus Fight in Scandinavia, Sweden Stands Apart” March 28, 2020
ストックホルムのホクオの「コロナ・ナウ」レポート
スイス、イタリア、フランス、イギリス在住の友人・知人から入ってくるコロナレポートを聞いていると、スウェーデンの状況は、たしかに深刻度は低い。
しかし、異常な状況であることは間違いない。
店は開いているし、街には人もいるにはいるが、本当に少ない。
多くの人が在宅勤務しているので、通勤時間の電車もガラガラ。
昼食時間には行列ができていた人気の食堂には、閑古鳥が鳴いており、今まで見たこともないオーナーがひとり出てきて全部やっていた。スタッフに給料が払えないので休んでもらっているそうだ。
どこのパン屋にもセムラが並んでいない。セムラは、スウェーデン人が大好きなこの季節限定の生クリームの挟まったおいしいパンなのだが、日持ちがしない商品を置く余裕はないのだろう。
トイレットペーパーの買い占めも問題になった。
連日、大小さまざまな施設の倒産危機のニュースも入ってくる。
昨日は、ストックホルムのスカンセン野外博物館が経営難に陥り、夏まで持たないかもしれないと報道された。広大な敷地に動物園も併設された、130年という世界でももっとも長い歴史を持つ野外博物館だ。
Expressen(スウェーデン語)の記事はこちら
中学校以下は、全国一斉学校閉鎖にはなっていないが、インターナショナルスクールなど、自主的に閉校している学校もちらほらある。
息子の学校では、先生が大勢来なくて、急遽午後休になって生徒が帰らされた日もあったし、放課後の習い事の類は、ほとんど休みになったままである。
そうかと思えば、2週間閉鎖されていた大人用のスポーツジムが、緊迫感まっただ中の二日前に突然、再開したりもして、何がいつどうなるか、さっぱり予測がつかない。
国民の自主性に任せてもらうのが、いいのか悪いのか・・・。
1週間後から始まるイースター休暇を前に、移動制限令が発動されるのではないかと身構えている人もいる。
(2020年3月28日、記)
以下を見ると、コロナで在宅勤務している様子が詳細にわかる。スウェーデン人と肩を並べて働く日本人キャリアウーマンのページ。