脚本で振り返るコロナ騒動:ケゾえもんシネマ「Covid19」 第4話

ケゾえもん
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ケゾえもんシネマ「Covid 19」第4話

<4月30日>

政府が発表した緊急事態宣言の期限の5月6日まで1週間を切っていた。

これまでの日本の死者累計は415名。
この時点でイタリアの1日300名、米国の1日2500名と比べると、非常に少ないと言ってよい状況であった。
日本では累計で400。欧米では1日数百人から数千人の死者とまさに桁がちがったのである。

一方、緊急事態宣言による経済の冷え込みは特に非正規雇用者を襲った。
総務省が29日発表した四月の労働力調査ではパートやアルバイトなど非正規雇用の労働者数が3月に比べ131万人減少、前年同月比でも97万人減少した。
休業者数は過去最大に達した。
雇用はさらに悪化する可能性が高かった。

「このままなら来月の家賃が払えない」。都内のホテルで清掃員として勤める五十代女性は苦境を吐露した。1日十時間、週六日働いてきたが、4月上旬、上司に「明日から来なくていい」と言われ休業に。
休業手当は払われず解雇もされない「ちゅうぶらりん状態」。個人加盟の労働組合に相談し、会社に給与補償と仕事への復帰を求めているがなしのつぶて。なし崩し的に失業することを恐れて職探しもしてみたが、募集している会社はないのだった。

連合本部に寄せられた労働相談によると、パート・アルバイト・契約社員など非正規社員の相談が6割強を占め、解雇・退職強要、契約打ち切り、休業補償など雇用関係が5割強を占めているとのことだった。
年代別では20〜50代が全体の8割を占めるが、60代以上も2割弱。
60代男性は言う。「明日いきなり派遣を切ると言われた。仕事がない中で、派遣元会社からは仕事を探すからと自宅待機を命じられていたが、先週、やっぱり『仕事はない』と言われた」

<5月4日 政府専門家会議>

議題は5月6日を持って緊急事態宣言を解除できるか?だった。
新型インフルエンザ等対策閣僚会議新型インフルエンザ等対策有識者会議会長兼新型コロナウイルス感染症対策分科会長と長い肩書を持つ尾身が座長を務めていた。

尾身 茂(笹野高史)「<新規感染者数がいくつまで減ったら解除される>等の明確な基準は設けられていません。
伝染病という要因では、新規感染者が減ってもまだ完全に安全とは言い難いからです」

数理疫学と言う、計算で流行性の病気の未来の動向を予想できるという学問の
日本の第一人者と自認する西浦が発言した。
<8割削減>というのは、彼の数理疫学の計算から導き出された数字である。

西浦 博(松尾諭)「緊急事態宣言を発令するに当たり、目標は立てられました。
<人と人との接触を最低7割、極力8割削減する>という目標です」

尾身 茂(笹野高史)「現状これが達成できているとは言い難いです」

SARSの発生時、発見場所のベトナムにいち早く飛び、封じ込めの最前線に立ち日本へのSARS流入を防いだと呼ばれている男、押谷が言った。

押谷 仁(篠井英介) 「データによりますと、47都道府県の各主要駅で感染拡大前と人の動きを比較すると、8割以上削減したのは大阪・梅田駅周辺の1カ所だけという結果に。
これだけ呼び掛けても目標の8割減までは程遠いですね」

釜萢 敏(國村隼) 「新規感染者は確かに減ってはいます。しかし大幅な減少とは言い難い数字です。
もし今コロナ前の生活様式に戻した場合、急激な増加が起こり得る程度には、まだ新規感染者が確認されています」

尾身 茂(笹野高史) 「国民全体の行動変化が必要ですね。逆説的ですが、緊急事態宣言が解除されるには「緊急事態宣言時の生活」が定着することが求められるのかもしれません。
しかし死者数を減らすため、残念ながら必要な措置です」

釜萢 敏(國村隼) 「今活動を自粛し、精神的・経済的な停滞に耐えておられる方は、1日でも早い事態の解決を望まれるかもしれませんが、一方、その皆さんのおかげで、医療崩壊はギリギリ免れています」

押谷 仁(篠井英介) 「西浦博教授は、「東京は減少に転じ始めた」と見ておられる。
一方で、「思っていたほどの減少速度ではない。もう少し劇的な変化が見られるのではないかと期待していた」とも述べられている。
想定よりも減少スピードが遅いというのが気になりますね」

西浦 博(松尾諭)  「数が単に減っているだけではなく、なだらかに減っているのか、急激に減っているのか、カーブの下がり方も重要なポイントです。全国の1日の新規感染者数が100人を下回り、2ケタになるのが目安ですね」

押谷 仁(篠井英介) 「3月までは、どこで感染したか、誰と接触したかをある程度、追跡できていた。
しかし、4月に入ると、東京では感染経路が分からない患者が6割以上を占めるようになり、8割を超える日もあったのです。
4月下旬は、4割ほどにはなっていますが、まだまだです」

押谷はSARSの成功体験により、クラスター追跡がこのコロナの蔓延を防ぐと固く信じている。
しかしSARSの場合は感染すると非常に強い肺炎症状が必ず現れるので、感染者の追跡は比較的容易だった。コロナの場合は不顕性感染(症状がない感染)がほとんどなので、クラスター追跡の手法では感染は止められないということが後にわかった。すぐに破綻するクラスター追跡、効果のはっきりしない8割削減にひきずられ自粛を強いられた国民は不幸と言ってよかった。

西浦 博(松尾諭) 「感染者数を減らして感染源が追えるところまで戻すことが大切ですね」

押谷 仁(篠井英介) 「1日当たりの確定患者数が10人程度の場合は東京都内でも接触者を十分追跡できていたので、そのレベルまで下げたい。また、医療機関の受け入れ体制が整うことを見て行動制限を解除するかどうか検討する必要があるでしょう」

西浦 博(松尾諭)  「人との接触8割削減は、まだ達成されていないです」

尾身 茂(笹野高史) 「解除したとしても、すべての活動が再開できるわけではなく、夜の飲食店や大規模イベントなどは一定の自粛要請は続くわけです。
経済活動の再開も段階的に行うことになります。
今後1年単位での長期戦を覚悟しなければなりません。
いったん解除しても、再び流行の波が来たら、再度宣言を出すなど厳しい措置をとることもあり得るということは合意事項にしておきたいです」

釜萢 敏(國村隼) 「専門家会議は、あくまで科学的な知見や数値に基づいて判断するもので、経済や社会に与える影響は、専門家会議の範囲外となっているわけです」

会議に出席していた内閣総理大臣は小さくつぶやいた。

内閣総理大臣(草刈正雄)「なんだこの議論の方向は。やつらどこまで規制が好きなんだ。まさか延長じゃないだろうな?」

ポーカーフェイスで聞いている内閣官房長官(笑福亭鶴瓶)。

日本での感染を比較的低く抑え込んできた功績があると思われているクラスター班の西浦と押谷はこの会議で強い発言権を持っていた。そしてこの二人は人と人との接触を8割減らさないとクラスター追跡ができるようにならない、非常事態宣言により必ずクラスター追跡できるようにしなければならないと言う強い意見を持っていた。

専門家会議は5月末までの緊急事態宣言の延長を内閣総理大臣に勧告した。

(参考)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/32143
https://www.businessinsider.jp/post-211260

<この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。>

2020年8月30日、ケゾえもん記。

ケゾえもん
つづきもお楽しみに。



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