ケゾえもんシネマ「Covid 19」第5話
結局、緊急事態宣言は5月25日に解除された。PCR検査陽性者グラフをみても死者数グラフをみても、あまりに明白な終息の様子に専門家委員会が慌てたのだ。
それどころか、2週間の潜伏期間を考慮して補正したグラフを作ってみると、緊急事態宣言が出た4月7日にはすでに流行はピークダウンしていた可能性が濃厚だった。本当に緊急事態宣言が必要だったのか大きな疑いが生じた。
しかし専門家委員会は3月20日からの3連休中に東京都が呼びかけた自粛要請などが功を奏してピークダウンが起こったと、あくまで自粛が有効だったと強弁するのだった。
そんな呼び掛けだけで、流行が治まるならそもそも緊急事態宣言など必要なかったのではないか?という意見は黙殺された。
6月に入って、緊急事態宣言の経済に対する影響が明らかになってきた。
端的に言ってGDPが10%ほどの落ち込みを見せたのだ。
これは個人消費を冷え込ませ、ボーナスをゼロにして、非正規雇用者の生活を破壊し、将来の年金受給額に暗い影を落とす、インパクトを秘めていた。
<6月5日 ある居酒屋のカウンター>
ケゾえもん(堺雅人)「もう絶対緊急事態宣言を繰り返してはいけない」
ケゾえもんの友人(及川光博)「おもしろい、説を唱える学者がいるんだ。上久保博士っていうんだけど、彼の説によれば日本人はすでに集団免疫を獲得しているということだ」
ケゾえもん(堺雅人)「なんだって、そんなばかな」
ケゾえもんの友人(及川光博)「そうだろ、俺も最初そう思った。それで話を聞いてきた。
俺の所属するシンクタンクの伝手で会うことができたんだ」
友人はケゾえもんに詳しく話した。ケゾえもんはその説の有力性に仰天した。
ケゾえもん(堺雅人)「お前のシンクタンクでそれを発表することはできないのか?」
ケゾえもんの友人(及川光博)「いや、今の時点では不可能だ。これだけの世間の常識とかけ離れた説を発表するにはそれなりの確立された学説でなければならない」
ケゾえもん(堺雅人)「ならば、こういう説があるということだけでも、指導的立場にある者に、伝えられないか?
たとえば首相にその上久保博士を会わせるとか」
ケゾえもんの友人(及川光博)「無理だ、無理だ、このコロナ騒ぎの中で首相のスケジュールにそんな会談をねじ込める人間などいやしないよ」
脇で女友達とおとなしく飲んでいたと思ったケゾえもんの彼女(石原さとみ)が割り込んできた。
ケゾえもんの彼女(石原さとみ)「あたし、首相とその上久保博士との会談をセッティングできると思うんだ」
ケゾえもん(堺雅人)「どうやって?」
ケゾえもんの彼女(石原さとみ)「蓮舫さんは、あたしの大学の先輩でまぶだちなの。こないだもいっしょにリモート飲み会したのよ」
目をまるくする、ケゾえもんとその友人だった。
<6月10日 国会議事堂の廊下>
内閣総理大臣が衛視、SP、取り巻きに囲まれて国会の廊下を歩いていた。
蓮舫議員(米倉涼子)「総理、総理!」
ぎょっとした顔をして足を速める内閣総理大臣(草刈正雄)。総理が足を速めたので取り巻きも全員足を速めた。
しかし、蓮舫議員は追いついてしまった。SPは助けてはくれなかった。
蓮舫議員(米倉涼子)「総理、逃げないでください」
内閣総理大臣(草刈正雄)「いや、別に逃げたわけでは・・」
蓮舫議員(米倉涼子)「実はこないだの借りを返してもらいたいと思いまして」
あからさまに嫌な顔をする内閣総理大臣(草刈正雄)。
耳元でささやく蓮舫議員。
蓮舫議員(米倉涼子)「怖い話ではないから安心してください」
あきらめ顔で、控室に蓮舫議員を招き入れた総理だった。
<6月12日 首相官邸>
官邸の車寄せに止まった迎えの公用車から上久保博士(吉川晃司)が降り立った。
博士は挨拶に出た首相補佐官に丁寧に官邸に迎え入れられた。
<12日の安倍首相の動静> 2020/6/12
▽7時44分 公邸から官邸。49分 岡田官房副長官。
▽8時23分 閣議。40分 衛藤沖縄・北方相。53分 国会。
▽9時2分 参院予算委員会。
▽10時37分 官邸。
▽13時22分 国会。36分 参院本会議。
▽14時21分 官邸。35分 林官房副長官補、今井補佐官、秋葉外務次官。58分 外務次官。
▽15時1分 上久保靖彦京都大大学院特定教授。40分 河村建夫衆院議員。
▽16時10分 北村国家安全保障局長、林官房副長官補、滝沢内閣情報官、
山田外務省総合外交政策局長、防衛省の槌道防衛政策局長、山崎統合幕僚長。36分 内閣情報官。
▽17時7分 河野防衛相。
(以下略)
2020年8月31日、ケゾえもん記。
上久保博士ですが、少年SFものの常道にしたがって「かみくぼはかせ」と発音してくださいね。少年SFものでキーマンになる科学者はみんな、「はかせ」ですから。