【クラシック おタク寄稿】ピアノの構造とピアノの音色の関係を徹底解説(ケゾえもん)

ピアニストによる音色の違い

(ケゾえもん2024/5/2 記)
ピアニストによって、ピアノの音色がどれだけ変化するかと驚かされたのは、クラウディオ・アラウの東京文化会館でのリサイタルに行ったときだ。その信じられない音色を聞いたとき、これが本物のピアノの音だったら、いままで聞いてきた音色は、いったいなんだったのだろうと思った記憶が鮮明にある。もちろん特別なピアノではない。アラウが使ったのは、東京文化会館備え付けのスタインウェイだ。

ピアノの音が出るまでの過程を簡単におさらいすると

鍵盤を叩く
→鍵盤はシーソー構造になっていて叩くと反対側が跳ね上がる
→シーソーの上部の井桁構造が歪む
→井桁構造の上のシャンクという棒が跳ね上がる
→シャンクの先にハンマーがついていてこのハンマーが跳ね上がり弦を叩く
→音がでる

という順番になっている。

ここで話を単純化するために、シャンクの動きにフォーカスをあてよう。

シャンクとハンマーがパーカッションで言えばドラムスティックになる。シャンクとハンマーは、鍵盤が普通に叩かれれば同じような動きをする。つまり調律師がポロン、ポロンと音を出すときは、ハンマーは弦の同じ部分を毎回叩く。そうでなければ毎回違う音が出てしまい、調律はできなくなる。

ところがピアノの音が出るまでの過程が上記の様にあまりに複雑なので、

1.鍵盤を叩く位置
2.鍵盤を叩く加速度の変化
3.鍵盤に指が触った後の指先の位置変化
4.鍵盤を叩く方向

などを変化させれば、シャンクの動きは当然変わってくる。物理的には確かにその通りなのだけど、これによる音色変化を実用にするのは難しい。

鍵盤の叩き方でシャンクの動きをコントロールしようと思っても、シャンクが見えるわけでない。見えたとしても違いは微妙すぎて、見えることはなんの役にも立たないだろう。従って鍵盤のタッチと出て来る音で、フィードバックさせるしかない。

シャンクの構造を見ると根本はヒンジ(回転機構)になっている。下の井桁がシャンクを押す構造はローラーだ。つまりシャンクには、曲げモーメントがまったくかからない。

ドラムスティックなら打ち下ろす時に手首をひねることで、スティックをしならせることもできるだろう。この場合はドラムスティックの先端の重量により発生する慣性力と、手でにぎることによりカンチレバー状態になり発生する曲げモーメントで、しなるのだ。

ピアノではシャンクはしなることもしない筈なのだ。しならなければ、ハンマーが弦を叩く位置も変化しない。従って鍵盤の叩き方をコントロールしてシャンクの動きをアレンジしようというのは、かなり絶望的な努力の筈なのである。

しかしピアノ(グランドピアノ)の構造は充分複雑なので、それは叩き方で音は変化するでしょう。それを感じとることもできるでしょう。しかしそれを自由自在に、音色が良くなる方向にあやつることができる人は、非常に限られるんだと思う。微妙過ぎる。柄の途中にヒンジがふたつある孫の手で、背中のかゆいところを掻こうとするようなもの。

ピアノはどういういきさつでこういう構造になったか、チャットGPTに聞いてみた。するとバルトロメオ・クリスティオフォリによって1698年に、この構造が発明されたそうな。

それでさらに「クリストフォリはどうして鍵盤が直接に弦を叩く構造にしなかったのでしょうか?」という質問をぶつけてみた。

すると瞬時に

1.当時の技術と材料では直接弦を叩く構造の実現が困難だった。
2.直接叩く構造では音の制御が難しかった。
3.より複雑な音色が出ると思った。
4.途中動作部分をたくさん作って鍵盤に直接不快な振動が伝わらないようにした。

と答えをくれた。1.はどうかなと思うが、概ね納得できる考察である。

ところで今見つけられないけれど、昔読んだクラウディオ・アラウへのインタヴューを載せた本に書いてあったこと。アラウはワルトシュタイン(有名なベートーヴェンのソナタ)を弾くとき、その日に使うピアノでオクターブのグリッサンドができるかどうか試すのだそうだ。どうしてもオクターブのグリッサンドができないピアノがあって、そういう場合はソナタ7番に曲目を変更するそうな。私が行ったアラウのリサイタルで、まさに曲目が予定されたワルトシュタインから7番に変更になった。つまり東京文化会館のスタインウェイでは、アラウはオクターブのグリッサンドができなかったわけだ。そんなことってあるの?

ケゾえもん



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