(ケゾえもん2024/4/19 記)
グレン・グールドと言うピアニストがいる。
なにしろ前記事で言ったように、わたくし、そもそもピアノ演奏鑑賞は、グールドのモーツァルトから入ってしまったので、グールドが私のリファレンスになってしまっている。
グールドの録音したモーツァルトについて、リリー・クラウスは、「あれだけの才能を持っているのだから普通に弾けばよいのに」と言ったそうだけど、ここから始めたわたしにはクラウスがなんと言おうが、これが普通になってしまっている。鳥の刷り込みみたいなものだ。
子供のころ姉がピアノを習っていて、ピアノの教則本のソナチネにモーツァルトのピアノソナタK545が入っていて、それが弾けるようになったので姉はそればかり弾いていて、耳たこになっていた。
グールドで聞いたのはモーツァルトのピアノソナタの全集であり、当然K545が入っており、突然それが姉が弾いていた曲と同じ曲だと気が付いた時には冗談でなくわたしに電撃が走った。
今回の話はグールドの演奏を再現する試みについてだ。
バッハのゴルトベルグ変奏曲というたいくつな曲がある。(バッハの曲は同じメロディが繰り返されるだけなので、みんな退屈なのだ)1955年23才のグールドがこの曲のレコードを発表すると、ルイ・アームストロングの新譜をおさえてチャート1位を獲得した。こんなことってある?クラシックでおまけにバッハだよ。
聞いてみればわかるけど、そのくらいすごい演奏だ。
「グールド ゴルトベルグ 55」(J.S.Bach “The Goldberg Variations”, Glenn Gould 1955)でユーチューブで聞けるから、聞いてみることを強くお勧めする。しかし1955年で当然録音はモノラルだし、ノイズも盛大に入っている。
2016年ごろ(ちょい確かでない)にそれをなんとかしようという試みがなされた。当時開発された高性能自動ピアノに、このグールドの55年の録音のゴルトベルグ(以下、グールド55)を演奏させ、その演奏を最新式デジタル録音機材で録音してみようというのだ。
録音分析プログラムが開発されていて、それから得られるデーターを自動ピアノに入力して演奏させるという原理。さて自動ピアノに演奏させ、最新式機材で録音したグールド(CDで発売)とグールド55を比べると、グールド55の方がはるかにすばらしい。
なぜかを説明したい。
まずピアノの機構の説明なんだけど、これが頭痛くなるくらい複雑で、図のように鍵盤(A)を叩くと、鍵盤は隠れた部分の方が大きくて(水色)それがシーソーの様になっていて反対側(B)が跳ね上がる。
その上に井桁状に組んだ木製の構造(図で青)があり、その先にハンマーがついていてそのハンマーも跳ね上がり、その上にある弦を叩くことで音が出る。その他ダンパーという構造があるがここでは説明しない。
しかしシーソーを動かすと井桁が動き、ハンマーが跳ね上がり弦を叩くって、これではまるでピタゴラスイッチではないか。
したがって鍵盤(A)を押してからの、各部品の動きが絶対に単純ではない。Aの押し方で各部品の動きが変化する。それが一流ピアニストが弾くと、音がまったく違ってくる原因となる。
さっするに一流ピアニストはどういうスピードと力と力の方向具合で弾くと、どういう風にきれいな音が出るのかということを、長い修練と生まれながらの嗅覚で知っているのだ。
ピアノの機構が複雑だからこそ、こんなにも演奏に差が生じるのだ。
さて自動ピアノというのは19世紀後半の発明だが、最初から考え方が非常に正しかった。つまり本物のピアノに演奏させることにしたのだ。だから自動ピアノの音は本物のピアノの音であり、発明された当時から人々は非常にきれいな音楽を聞くことができた。他の方法ではおいそれとピアノと同じ音を出す機械など作れるわけがなく、現代の電子ピアノの本物のピアノの音に近い高級機は、実は本物のピアノの音を録音し音源としている。
では自動ピアノはどうやって鍵盤を叩くのか?
実は叩くのではなく、図のBの下にボッチ形状の部品が仕掛けられておりこれが適宜飛び出すことで、Bがはねあがり音が出る。
この方法の良いとこは、ボッチが飛び出して音を出すと、必然的にAの部分が下がり、まるで透明人間がピアノを弾いているように見えることだ。
しかし、私は一流ピアニストはAの押し方で魔法が使えると言った。これと同じことをBを押し上げることでは、絶対にできないと断言できる。
したがって未来にグールド55と同等演奏ができる自動ピアノができたとして、それは必ずピアノの前に座ったロボットがピアノを弾くという形で実現されるであろう。
ケゾえもん
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