「ベン・ハー!その3」
(文=ケゾえもん)
はっと気が付いたんだけど、ウィリアム・ワイラー監督が戦車競技場を中央に巨大オブジェのある変な競技場にしたのには理由があったんだ。だってさ、CGのない時代に数万の人間のいる観客席を見せることは超難しい。しかし中央に巨大オブジェがあれば、観客席側からの映像を見せれば映るのはオブジェの壁で観客席は見せないで済む。いくらハリウッド黄金時代でも数万人のエキストラは雇えないからねえ。
だから主催者席も反対がまったく見えない変な席になってしまう。イベント演出を極限まで高めたローマ人がこんな競技場は絶対作らない。
だけどウィリアム・ワイラーには他に選択肢がなかったわけだ。
ふむ、これは黒澤明だって困ったろうな。
さて、いちゃもんは続く。スタートラインで、馬が興奮しているので、係員が必死に押さえつける。
しかしスタートのときは係員がさっと引き上げて(右の鉄棒の横に4人ほど階段をあがる係員が見える)タイミングを見て主催者がハンカチを落とすとスタートという筋書きだが、これできれいなスタートは不可能だ。
下の写真は事故が発生してマーシャルが駆けつけようとしているところ。馬2頭のマーシャルは事故車の馬を片づけるのが目的。ゲートから駆け出そうとしている2名は実は4名で担架を運んでいて、けが人収容が目的。
それで馬を片づけようとするともうすでに周回まわって馬車が迫ってきている。
あのね、数万人集めたイベントでレースを完結させるのが一番大切でしょう。この事故の多い緊迫のレースでこのマーシャルの体制ではレースの実行は不可能だと断言する。すぐにレースは止まってしまうよ。黒澤明ならこんなことはない、実際に実行可能なレースを見せてくれるだろう。とは言ってもウィリアム・ワイラー良くやったと思うよ。馬車はまじガチで走らせて見せているからねぇ。
ところでこの主催者、確かローマから派遣されたエルサレムの代官だよね。ということはもしかしてポンシオ・ピラト?映画をまじめに見返さないと確認できないから今はちょっとわからない。ピラトだとするとベン・ハーって物語なかなかおもしろいね。
ピラトはイエスを処刑する命令を出したことで歴史に名を残しためちゃくちゃ損な役回りな男。イエスはユダヤ教に反する教義(愛がすべてを解決する)を主張していて非常に人気があったのでユダヤ教の指導者たちからにらまれていた。結局イエスはいろいろな経緯から逮捕され、ユダヤ教の指導者や世論誘導された民衆から死刑にしろと叫ばれピラトはしぶしぶイエスに死刑の宣告をしたのだ。
下の絵画はピラトが民衆の前でイエスを指し示し、私にはこの者は罪がないように思うが、お前たちはこの者を死刑にすることをどうしても望むのか?と聞いているところ。圧倒的世論の前にピラトはなすすべがなかったのだ。
(続く)
(2021/5/11 ケゾえもん 記)
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