ライオンキングを手がけた名演出家、J.テイモアのマジックにかかった「マジックフルート (魔笛)」は、だるくない!
以下、ニューヨークメトロポリタンオペラの上客、ケゾえもんの新シリーズ寄稿。
メトロポリタンオペラの「魔笛」の演出が素晴らしかったという記憶
WOWOWを契約していて、メトロポリタンオペラの中継放送が定期的にあってこれまで100タイトルくらい録画してあるのです。
最後にニューヨーク行ったとき、メトロポリタンオペラでモーツァルトの魔笛を見たんだけど、これが良かった。演出がいいんだ。
もう一度見たくて100タイトルの中から探したんだけど、やはり録画がない。
ところが明日(2020年6月4日)、この魔笛が放送されるはずなので、絶対録画しないととはりきっているところ。
魔笛って、事情があって庶民の芝居小屋のためにモーツァルトが作曲したので、どうも劇として冗長なところがあって、最初に有名な序曲が演奏されるんだけど、一度音楽が止まってファンファーレが鳴るんだな。それからまた始まって終わる。これ何の意味だと?前から思っていたんだけどその答をいや疑問すら言ってくれた人がいない。
それから劇がセリフ(レチタティーヴォ)で進むので、だるい場面がある。特にオペラ歌手は歌の専門家だけれど演技の専門家でないからだるい。
だからだるいなおかしいなと思いながら(とてもすばらしいんだけど)このオペラを見るのが常なんだけど、メトロポリタンオペラのこの魔笛はそういうところが全然ないんだな。
どうしてかって考えたとき、あっそうかと思ってその時演出のすばらしさにいろいろ気づかされたのだけど、時間がたってそれを忘れてしまった。ぜひ再確認したい。
今調べると、この時の演出家はミュージカル「ライオンキング」のJ・テイモアと言う人らしいのです。
(2020年6月3日、ケゾえもん記)
メトロポリタンオペラの「魔笛」の演出はやはり素晴らしかった
WOWOW放送のメトロポリタンオペラの魔笛を無事録画して、さっきちょっとだけ見た。
J・テイモアの演出は、はっきり言ってすばらしい!
美術は、ミュージカル・ライオンキングを彷彿とさせる楽しいもので、かわいそうに夜の女王の侍女たちは黒塗りで黒子にされ、身体は無くて手に持ってる頭の模型だけのお化けにされてしまっていたりする。
パパゲーノは例の緑のインコ衣装なんだけど、鳥かごモチーフが身体の前面を覆っていて、夜の女王の侍女がうそをついた罰に、口に鍵をかける場面では、ちょうど股間ガードみたいになっていた鳥かご部分を取り外して口にねじ込むというのがおもしろかった。
夜の女王の侍女たちが王子を見つけた場面では「おー!」とか、いい男を現すのにアメリカン娘風の表現をするのがおかしい。
シカネーダ台本のおかげで、冗長な筈の部分がそれを感じさせないのでテキストと照らし合わせないとわからないけれど、恐らく大胆なセリフのカットがされていると思われる。(いいのか?それでいいのだ。)
演出で大切なのは、人を納得させられるかどうかで、冒頭タミーノ(王子)が竜に追われて逃げてきて「もうだめだ、助けてくれ」と言って気絶すると元の台本にはある。それでこれまでもその通りの演出がなされてきたんだけどJ・テイモアは違う。王子は終始、敢然と竜と戦う姿勢を崩さない。
そして最後に気絶したのは、明らかに怖いからでない。超自然の衝撃波かなんかを受けて、倒れ込んだのだ。これ正解だわー。
そうでないと、後でパミーナのハートをたちまちつかむ男でいることはできないと思うんだ。
夜の女王の登場の場面でも、良くある演出では夜の女王を恐れて怖がって、でもだんだん慣れてきて手を差し伸べるなんてのが多いんだけど、J・テイモア演出では王子は夜の女王が登場したと同時にかしこまり、ひざまずき、頭をたれる。これが正解でしょ!!
夜の女王に馴れ馴れしく手を差し伸べるなんてあってはいけない。
ここまで見てJ・テイモアは外さない演出家だとの意を強くした。
2020年6月5日、ケゾえもん記。
ジュリー・テイモア(Julie Taymor)
ジュリー・テイモア(Julie Taymor, 1952年生まれ – 現在67歳)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州出身の舞台演出家・映画監督。
ウィキペディアより
オベリン大学卒業。ブロードウェイの舞台や映画製作に携わり、その鮮明なビジュアルやカラフルな衣装が特徴。
幼いときから演劇に魅了され、色々な劇団に携わったり、パリでパントマイムを学んだりした。オベリン大学では神話学を学びながらJoseph Chaikin’s Open Theatreに参加。1974年の卒業後は文楽を学ぶために淡路も訪れている。
ブロードウェイ・ミュージカルの『ライオン・キング』の演出でトニー賞を受賞。
※アイキャッチ画像の出典:メトロポリタンオペラの公式ホームページより