墓じまい、父の終活

2017年6月24日、追記

 

故郷の父から、墓地が売れたという連絡が入った。

30年近くも前、父がその分譲墓地を買ったときのことを覚えている。

三男の父は、死後、本家の墓には入ることができないらしく、自分の代からの墓地を用意した。

神社のすぐ近くの高台にあるその墓地は、とても見晴らしがよく、そこから見渡せる街の景色に父は満足していた。

計算してみると、ちょうどホクオが大学を卒業し、地元に戻って就職した年になる。
当時の父は、自分がそうしてきたように、自分の子孫が自分の墓参りをし、墓を守っていくことを当たり前のこととして、少しも疑っていなかったのだろう。近くを通る度に、「眺めがええところじゃろう。お父さんは、死んだらここに入るんじゃ。」と機嫌よく言っていた。

それから数年後にホクオは日本を離れ、弟は、都会で就職し結婚した。

父は、弟が帰省すると必ず、定年後に故郷に戻ってくる気はあるかと、ずっと先のことを聞いていた。弟はいつも曖昧だったが、父の聞きたい答えを返すことはなかった。

そんな父が、数年前から、家はまだ自分たちが住むから処分も出来ないが、墓地は売っておこうと思っていると言い始めた。

母は墓地の売却に反対していた。父が死んだら、世間の人と同じように、普通に墓参りがしたいと。

じゃあ、母も死んだらどうなるのか、こんなところに両親の墓があっても子供の負担になるだけだろうと父に言われると、そんなところまでは考えられない、自分が死んだらなんでも好きにすればいい、自分が先かもしれないしと言って、毎回、その話は終わりになっていた。

30年前から終活していた父と、74歳になっても終活など考えたくもない母の、そのまったく同じ平行線のままの会話が、おそらく数え切れないぐらい繰り返された末に、この度、父が、強行して更地の墓地の買い手を見つけたようだ。

父が墓地を売ったことを友人への近況メールで知らせたら、こんな返信をもらった。

ホクオのお父さんの話には考えさせられた。
今日本では、「墓をどうするか」がとても大きな時代の課題となっている。
ホクオのお父さんの「墓じまい」の動機が、子供の負担になるからというのは普遍的な話だと思う。
僕の身近で「墓をどうする?」という問題に直面した高齢者世代がまず考えるのがそれだ。それを聞くたびに、若い世代は親世代の思いやりにずいぶん守られていると思う。

「墓じまい」という言葉があるのを初めて知った。実際には、父は、更地の土地を手放しただけなので、その言葉に該当しないのかもしれないが。

ホクオも、ほぼ、父が自分のための墓地を買った時の年齢になった。

付記:「親の思いやり」について

上の引用だけで終わっておけば、話はわかりやすいのだが、友人からのメールには続きがある。

若い世代は親世代の「思いやり」にずいぶん守られていると思う。

同時に、よくあるように、この「思いやり」は、必ずしも相手のためにはならないんじゃないかとも思う。
多くの場合そこで論じられていないのは、現代に生きる人間にとっての「死後の生命」に関する神話であって、それを抜きにしては墓のあり方も決められないんじゃないだろうか?

しかし、現代は「死後の生命」に関する伝統的で普遍的な神話が失われた時代であり、それを探すのは、ユングも言うとおり「最高の挑戦」であると同時に、本当に難しいことだと思う。

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