【クラシック寄稿】わたしが若い頃のポリーニをアイアンマンと呼びたい理由(ケゾえもん)

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(ケゾえもん 2024/3/30 記)
私の言う、ポリーニの若い時の鋼鉄の演奏(前記事参照)とはどういうことか説明しよう。
ピアノを弾くときを考えてみて欲しい。手は空中にある。手の重さは個人差があるが大体に0.5キロから1キロだ、この状況で決して軽いとは言えない。支えているのは前腕でその根元はヒンジになっている。つまり肘だ。

前腕の長さは30㎝もあるだろう。手は肘からの片持ち状態になっており、これを工学的にはカンチレバーといい、これは一番負担のかかる構造であり、できれば避けたい構造ではある。ピアニストはそういう状況で演奏しないといけない。

他の楽器はここまで不安定ではないだろう。バイオリンは弓は弦に音を出す操作中はずっと触れており、この時は手と弦の2点支持になっている。

木管楽器、金管楽器は楽器自体を持つ形になりキーを指で操作するとき楽器自体が支えとなる。

ドラムやティンパニは手は空中にあるが、ピアノほど精妙なコントロールは要求されないだろう。

しかしとにかく、ピアノの場合はカンチレバーで浮かした状態で、空中にある手から指で打鍵するということになっている。だからピアノをうまく弾くのは難しい。どいつもこいつもひどくピアノがへたなのはそういう理由による。

これではあんまりなので、ピアノの前に左右に伸びる手首を支えるバーがあったらどうだろう。手首はそのバーに固定されていてAIのコントロールによりリニアモーターかなんかで所定の位置に手を持って行ってくれる。手はかなりの安定状態になりピアニストはそこから打鍵すれば良い。

もちろん本気で言っているわけでない。しかし100%の荒唐無稽ではない。たとえばゴルフクラブの性能試験をするロボットがある。

人間ではスライスしたりフックしたりするところをいとも簡単にまっすぐな球筋のショットをばんばん連発できるそうだ。人間がまっすぐな球を打つのにどんなに苦労するかを考えると、人間の努力がばかみたいに見える話だ。マシンのど太い腰と完全ボルトで固定された足を見て欲しい。まともなショットを打つためにはこのくらいしないといけないという証拠だ。

さて私の妄想するピアノ演奏補助機械がたとえある程度うまく行っても

1.黒鍵もあるから左右だけでなく前後にも動かさなければならず話がややこしくなる。

2.左右に手が分かれているときはいいけど、交差させるときはどうしたらいいやら。

3.この装置をショパンコンクールに持ち込むことが許されるかどうか。

というような問題を抱えていると思う。

すると奇抜な建物を設計する建築家と同じことをすればよい。充分丈夫なカンチレバー構造を作れば良いのだ。肘を丈夫なユニバーサルジョイントにして前腕を鋼鉄製にして強度だけでなく充分な剛性を確保する。そういったサイボーグ人間を作りそれをアイアンマン1号と名付ける。

アイアンマン1号は空中にある手を完全安定状態にできるので、完璧な演奏が可能だ。そのアイアンマン1号こそ、マウリツィオ・ポリーニである。2号は遂に作られなかった。あれ?1号はグレン・グールドだっけな?でもそういうことを言いだすと話の収拾がつかなくなるからそれはまた別のお話ということで。

1960年18歳のポリーニがショパンコンクールに優勝し、審査員のアルトゥール・ルビンシュタインに「ここにいる誰が彼よりうまくピアノが弾けるだろう」と言わしめたころはポリーニは確かにアイアンマンだった。いつまでアイアンマンだったかというと、それはちょっと調査研究してみないとわからない。

言う必要がないほどつまらない例で申し訳ないが、私の視力は現在0.7程度である。小学校の時は1.5あった。それがじょじょに悪くなった。今でも小学校のときの見え方は覚えていてあのころは景色が良く見えたのにと残念な気持ちになることがある。高校生のとき眼科に行って「ぼやける」と訴えた。医者は「でも君1.0でてるんだよ」と言った。1.5あったんですと言ったら「あー1.5あったんならぼやけるって感じるかもしれないね」と言って同情もしてくれなかった。

ポリーニはなまじアイアンマンだったから、その人生は劣化との戦いではなかったか?サントリーホールの控室で見たポリーニの難しい表情はその苦しみの表れではなかったかと勝手な想像をしてみた。

ケゾえもん



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