【ケゾえもんオペラ寄稿】薔薇の騎士について語りたい その10

(2023-10-29 ケゾえもん記)

それでは1994年以来、最近までずっと薔薇の騎士を聞いたことがまったくなかったのかと言うとそんなことはない。

2011年4月に東京初台の新国立劇場で行われた公演に行っているのだ。その1ヶ月前に東日本大震災が発生している。東日本大震災という言葉を使うのは日本だけで外国ではこの事象を「Fukushima nuclear accident」または単純に「Fukushima accident」と呼ぶ。大きい地震の例としてではなく大きい原子力事故として記憶されているのだ。

この2011年4月の公演で指揮者のクリスチャン・アルミンクが放射能の危険を理由になんとキャンセルしてきた。もちろん公演を30日以内に控えたキャンセルである。大騒ぎになった。このときの予定していたオーケストラは新日本フィルでこのときアルミンクは新日本フィルの常任指揮者も務めていたので、一時新日本フィルとの関係が悪くなった。それどころか日本のクラシックファンとの関係も悪くした。私も実力あるアルミンクが指揮するということで、もしかしてなにかを巻き起こしてくれるのではと期待していただけにがっかりした。アルミンクは学生時代にクライバーのリハーサルに侵入していたりしたらしい。のだめの世界だね。

しかしアルミンクは(よくは知らないが)どう見ても良いところのぼっちゃんだ。少年時代はウィーン少年合唱団に入っていたそうだ。
「そんなあぶない状況にわざわざ行ってどうするの?放射能障害は一生ものよ」
と、かあちゃんに泣きながら説得されたのかもしれない。
それにね、後でいろいろ知ると本当は東京はあぶなかった。風向きが幸運だったので放射能は太平洋と浪江町に流れて東京は助かっただけなのだ。阿鼻叫喚の退避さわぎが発生した可能性は充分ある。枝野官房長官に安全だと言いくるめられていたのは日本人だけで海外ではチェルノブイリを上回る事故と相当な危機感を持たれていた。

放射能に敏感な人は欧米には多い。クライバーの薔薇の騎士でゾフィー役をやったバーバラ・ボニーも東海村臨界事故を理由にリサイタルをキャンセルした。正気のさたではない。東海村のはウラン溶液をじゃーっとバケツで入れてうっかり臨海に達してしまい瞬間放射線が爆発的に発生したもので放射能(放射性物質の粉塵)事故なんかじゃないからだ。危険があるわけがない。

飲みに行ったときにウィーンフィルのウォルフガング・シュルツさんにその話をしたら知日家のシュルツさん顔をしかめて「バーバラ・ボニーしょうがないね」と言ってくれたので胸がすっとしたおぼえがある。

さて指揮者が直前に変わってしまったこの薔薇の騎士だが、詳細はおぼえていない。しかしすごく満足したおぼえがある。舞台セットも立派なもので、3幕の居酒屋も居酒屋らしくない立派さで、掘っ立て小屋の穴倉みたいなセットよりよっぱど気持ちいい。左側に廊下が作ってあって、ここでファーニナルを介抱するゾフィーなど普通の薔薇の騎士だと見えないところを見せたりしてうまいなーとは思った。

ただしこれはクライバーと匹敵する!と驚いた記憶はないので、クライバーの再現ではなかったことは確かだと思う。(あたりまえか)でも良い公演だったとの記憶はある。今調べると、これとほぼ同じ薔薇の騎士の公演が最近新国立で行われたみたい。見に行きたかった。おしかった。最近どういう公演があるかさぐるのやめちゃっているからな。

(ケゾえもん)



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