【ケゾえもんオペラ寄稿】ニュールンベルクのマイスタージンガーは、ワーグナーの遊び心が詰まったパラレルワールド

2000文字

(2023/3/15 ケゾえもん 記)

リヒャルト・ワーグナーの作曲で「ニュールンベルクのマイスタージンガー」
というオペラを知っているだろうか。

これってパラレルワールドなのだ。

わかりやすいので「魔術師が多すぎる」という小説を紹介しよう。この小説の描く世の中は全員が魔術師で魔術が使える。その中で密室殺人が発生し探偵がその謎解きをする。もちろん魔術は全員使える前提だけど魔術を使ったとしてもどうやったかわからない事件なのだ。アイデアすばらしい。

パラレルワールドはSFで良く使われる手法で「普通の世界と違う世界がありました。その違いはこれこれです。ではどうなるでしょう」ってのが基本。たとえば現代に恐竜が蘇りました。というのがジュラシックパーク。この世界では恐竜が蘇ったという以外は基本的には今と同じ世界。それでどうなるでしょう?ということ。

パラレルワールド物語の傑作といえば、なんと言ってもフレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」だね。主人公は奇妙なパラレルワールドに入り込んでしまう。いろいろな危機を乗り越えてから歴史を調べてみるとこの世界の歴史は自分がいた世界とある時点まで寸分の違いもない。違いはある技術者がミシンの修理をしていたときミシンが消えてしまったという出来事からはじまる。空間転移装置の原理が発見されたのだ。これねめちゃくちゃおもしろいから読んでごらん。

うわ、でもアマゾンで9,000円もしてる。貸そうか?

ニュールンベルクのマイスタージンガーでワーグナーが描いたのもパラレルワールド。職人が全員歌手で、職人としての腕前と歌手の能力がなぜか比例する世の中が有りました。そうだとするとどうなるでしょう?

つまりワーグナーが書いたのはSFなんだよね。そこには遊び心だけがあり、そのシチュエーション自体には深い意味なんてない。ところがワーグナーがあまりに偉大過ぎるのでなんとか忖度しようとする。

マイスタージンガー (ドイツ語: Meistersinger)は、中世から近世にかけてのドイツの手工業ギルドが与えたマイスター称号の一つ。マイスターは「親方」、ジンガーは「歌い手」であり、日本語では「職匠歌人」、「親方歌手」などとなる

ウィキペディア

マイスタージンガーは、ドイツ各地の宮廷を遍歴していたミンネゼンガー(吟遊詩人)たちが、中世貴族の没落に伴って都市に住み着いたのが始まりと考えられている。15-16世紀にかけて、ニュルンベルクをはじめとする南ドイツの諸都市を中心に、手工業者の親方や職人、徒弟たちが組合に集い、詩と歌の腕を磨き合う文化が栄えた。

ウィキペディア

そもそも「マイスタージンガー」とは、中世南ドイツにおいて、手工業の親方で同時に作詞作曲家や歌手として師匠格である者に与えられる称号であり、ザックスもその1人でした。ワーグナーは、ものづくりの傍ら自らの芸術にも情熱を注ぐ彼らに焦点を当てることで、ドイツ芸術の永遠の素晴らしさを表現したのです。

ワセオケ

「工匠歌人」と訳される。 15~16世紀のドイツにおける文学的,音楽的運動とその詩人,音楽家たちをさす。 12~14世紀のミンネジンガーの運動を市民階級が受継いだものともいえ,彼らはほかに本職をもちながらマイスタージンガーのギルドに所属し,弟子,仲間,歌手,詩人,親方などに組分けされて,日曜や祭日に教会に集って歌を競った。その歌は無伴奏,単旋律で,バール形式に従っていた。

コトバンク

みんな見当違いもはなはだしい。というか上記説明として破綻してるでしょ。偉大なワーグナーがなんかしてるんだから深い意味があるに違いない。ましてパラレルワールドなんてことをワーグナーが持ち出す筈はないと固く信じて、なんとかマイスタージンガーは実在したとしての解説を書こうとしてしまっている。ワーグナーがこの解説を読んだら笑い出すよ。

マイスター(職人の親分)のジンガー(歌手)なんだからね。いねえよそんなの。

●ウルトラ(超でっかい)マン(やつ)
●アストロ(宇宙飛行の)ボーイ(少年)
●キューティー(めっちゃかわいい)ハニー(娘)

とかいちいち本当にいてたまるかと言うものなのだ。

話かわってワーグナーのオペラの主役はヘルデンテノール(英雄的テノール)の能力を持った人が歌ってくれないと困るのだ。ヘルデンテノールとはなんぞやというのはヘルデンなテノールとそうでないテノールにワーグナーの同じ楽曲を歌わせて聞き比べすればすぐ理解できる。

このニュールンベルクのマイスタージンガーの主役ヴァルター(テノール)が歌うアリアが「朝はバラ色に輝きて」なんだけどこれだけは例外でヘルデンテノールでないプラシド・ドミンゴがこの曲を歌ったのが至高。(全曲盤有り)

ただし同じドミンゴがローエングリンを歌った全曲盤はこんな甘い声のローエングリンがいるわけないと気持ち悪くてもだえてしまう。

(2023/3/15 ケゾえもん 記)



※アイキャッチ画像の出典は新国立劇場

オーロラの街、スウェーデンのキルナ前のページ

【ケゾえもんオペラ寄稿】ワーグナーの魔力全開トリスタンとイゾルデ次のページ

関連記事

  1. 文化、音楽、本

    ムーミンと作者トーベ・ヤンソン

    2020.10.8加筆 (4700文字)。(初公開2011年9月、サイ…

  2. 文化、音楽、本

    “To Sweden With Love” The Art Farmer Q…

    ジャズが好きな人のためのページ。"To Sweden with Lo…

最近の記事

人気記事

  1. 骨折したときは腕を吊らないでください(スウェーデン医療)
  2. 【ケゾえもんコロナ寄稿】2020-2023 コロナ専門家たち…
  3. スウェーデンのゆるいコロナ対策は失敗か?死亡率グラフで一目瞭…
  4. 【コロナ寄稿】明けないコロナの夜明け:コロナの終戦はいつ?(…
  5. スウェーデンでタコパ:こだわりタコ・ラブラブわんこ・およげた…
  6. 報道ステーションでスウェーデン:日本人はなぜコロナをそんなに…
  7. 小林よしのり「ゴーマニズム宣言コロナ論」とケゾえもんコロナ映…
  8. 「スウェーデン方式の真相」と老人のコロナ死を自然死だと言えな…
  9. 不朽の名作映画「ニューシネマパラダイス」
  10. 流行の北欧ぬりえ作家ハンナ・カールソン、自分の両腕にもぬりえ…
  1. スウェーデン、ストックホルム

    スウェーデン葬儀事情、納骨編:ドイツ人の義母はスウェーデンで永遠の眠りについた
  2. スウェーデン、ストックホルム

    凍った湖で寒中水泳:スウェーデンの日常風景
  3. スウェーデン、ストックホルム

    流行の北欧ぬりえ作家ハンナ・カールソン、自分の両腕にもぬりえイラストのタトゥー(…
  4. スウェーデン、ストックホルム

    SOMPO美術館「北欧の神秘」―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画展2…
  5. コロナ

    【コロナ寄稿】寺島/勝田/松本/尾身/倉持/二木/尾崎氏への挑戦状:100万円賭…
PAGE TOP