(ケゾえもん2024/04/05 記)
ユーチューブが勧めてきた映像に、ポリーニが70歳ごろにベートーベンピアノコンチェルト5番を演奏したものがあった。高画質で高音質。こんなものがあったのかと聞いてみたら、これがすばらしい。
ユーチューブにはデーターが書いてないので正確な年齢はわからないが70歳とちょっとのときだと思われるのだけど、ポリーニは見た目は年齢より年をとってしまっている。指も時々まわらない。ところがポリーニは、ピアノにストレートに向き合って演奏できる。ピアノにストレートに向きあうのは当たり前だって?さにあらず。よく苦しそうな顔して身をよじりながら、ピアノよ鳴ってくれ鳴ってくれとお願いしながら演奏って姿見たことないですか?あれってわたし嫌いでよけいなパフォーマンスだと思うし、自分への自信のなさの表れだと感じるのだ。
70歳のポリーニにはそういうところはみじんもない。ただ見事に弾く。「お前は男だねー」って演奏。これほどお前は男だと感じたピアノ演奏は園田高弘しか他にいない。園田がブラームスのコンチェルトを弾くとただただ「男だねー」と感じたものだ。園田の話はまた別の機会に。
それで35年前に聞いたポリーニの演奏を思いだすことができた。やはり実演を聴いているというのは大いなる強みだ。大感激したのはこれだった。あのとき友人お母さま(過去記事参照)は、アイアンマンの演奏(前記事参照)を求めて行ってそれが聴けないのでがっかりしてしまった。お母さまはピアノ教師で専門家であり、わたしよりはるかに年長であるということから、わたしはそれはなにか深い理由があっての落胆だとその時は考えた。しかし今は、考えてみると私はそのお母さまのその時の年齢を凌駕している。もはや若輩者ではない。それで言わせてもらうと、お母さまはやはりいささか了見が狭かった。
このコンチェルト5番の映像ではポリーニはひどく爺さんになってしまっていて、このコンサートホールは脇でなく下手後方が出入り口になっていて、オケは階段状のステージに並んでいる。したがって舞台から退場するのがぜんぜんバリアフリーではない。そこをひどく爺さんのポリーニが、わりとすいすい歩く。あきらかになんらかの強い体幹がある。体幹がなければあの演奏はできない。
以下はスターウォーズを見たことのない人には理解できない文章だから読み飛ばして。
ジェダイマスターだったクラウディオ・アラウが死んで、ジェダイの中でジェダイマスターを引き継いだのはポリーニだったのであったかと、このユーチューブ映像を見て初めてわかった。しかしポリーニは死んでしまった。これを持って伝説のジェダイの時代は終わりを告げ、これからは人間のピアニストの時代となる。20世紀の黄金時代は録音だけで知れるまぼろしの時代となった。
ケゾえもん
※アイキャッチ画像の出典はこちら。