2011年のノーベル文学賞を受賞したのは、スウェーデン人の詩人、トーマス・トランストロンメル(Tomas Transromer)氏。1931年生まれの80歳です。(残念ながら今年も受賞を逃した村上春樹氏は、まだ62歳。まだまだチャンスはありますね。)
20年前に脳卒中で倒れ、言語障害と右半身不随を患った氏は、話すことや行動が不自由になっても、詩を書く意欲を失うことなく、1993年以来、毎年、受賞候補に挙がっていたそうです。
受賞発表後、自宅に駆け付けた取材陣の前で、代弁者の奥さんは、受賞の喜びと共に、「受賞者は、てっきり、発表のかなり前に受賞のことを知らされると思っていたら(つまり、今年の受賞者は、氏以外の人に決まったのだろうと思っていたら)、発表の“4分前”に電話がかかってきたので本当に驚いた」と語っていました。
ノーベル文学賞の決定機関であるスウェーデン・アカデミーの代表者は、発表後のインタビューで「自国の人間に賞を与えることに対して、他国から異論が出るのでは?」と聞かれて、「その点については、われわれは十分慎重であるし、過去の例を見ても、われわれが、スウェーデン人をひいき目に見て、むやみに賞を授与していることはない。そもそも前回のスウェーデン人のノーベル文学賞受賞から、すでに40年近くが経っている。」と答えていました。
※前回のスウェーデン人ノーベル文学賞受賞者は1974年。Eyvind JohnsonとHarry Martinsonのダブル受賞。
日本人受賞者は、1994年の大江健三郎氏と68年の川端康成氏の2人。
ノーベル文学賞の賞金は1千万クローナ(約1億1千万円)。授賞式は12月10日にストックホルムで行われます。
以下の動画は、受賞発表後、自宅にて妻と共に、インタビューを受けているところです。
略歴
ジャーナリストの父と教師の母の間に生まれる。1956年にストックホルム大学を卒業、心理学者として非行少年や薬物中毒者のための更生施設などで働いた。作曲家としての顔ももつ。
作風
心理学者としての視点をはじめ、米国やアフリカなど世界各地を旅した経験や、身近な人たちの病気や死などの体験、自由と言論統制といった相反するテーマを取り込み、現実とかけ離れた独自の世界観を構築している。戦後のスウェーデンを代表する詩人で、短い自由詩のなかに神秘的世界をイメージ豊かに描く詩人として知られる。音楽性も豊かで自然描写に優れ、独創的なメタファーを駆使することから「隠喩の巨匠」と呼ばれる。作品は60以上の言語に翻訳されている。日本の俳句にも深い造詣を持つ。
邦訳
「英語圏では最もよく知られた現代北欧の詩人」で、詩集が60以上の言語に翻訳されているという割には、日本ではこれまであまり知られていませんでした。唯一の邦訳詩集「悲しみのゴンドラ」(思潮社)も1999年に初版が出されたあと絶版になっていたようで、この度のノーベル文学賞の決定を受け、新装版として出版が準備されているようです。
ひそかな雨の音
わたしは秘密ひとつをささやいて
響き合わせる
『悲しみのゴンドラ』所収「俳句詩」より