【ケゾえもん寄稿】知られざる宇宙誕生の物語 ── 連載最終回

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「神は存在するか? その19(最終回)」

(ケゾえもん 2023.9.14. 記)
全能の存在は宇宙をひとつ作ることにした。便宜上その存在をここでは彼女と呼ぶことにする。目的は知的生命の発生実験だ。彼女がたとえ我々の能力より数兆倍の高度な能力を持っていたとしてもシュミレーションには限度がある。彼女にしても実験は必要なことなのだった。

知的生命の実験で問題なのは、知的生命には探求心があるのでいろいろ探られてしまうことだ。全能の存在が宇宙を作ったことがわかってしまうと、それを知っていることが、知的生命の活動に大きな影響を与えてしまい実験に支障が出てしまう。彼女が宇宙を作ったことは知的生命にはわからないようにする必要があった。

それには一番いいのは宇宙をビッグバンで開始することだ。それ以前のことを知的生命が探ろうにも不可能にしておくのだ。ビッグバンで作った宇宙の問題は時間と共にどんどん希薄になって行ってしまい、従って希薄にならないうちに実験を終了させなければいけないということだ。しかしまあこれは種々あるこの実験の制約のひとつにすぎない。彼女は宇宙を作る際に、すべての物理常数を調節する必要があった。重力常数、強い力、弱い力、電磁力、プランク常数などである。そのことについての彼女の計画は以下の様であった。

1.物質は陽子と中性子と電子で構成する。
2.最初は水素とヘリウムだけ作る。
3.水素とヘリウムは重力で集合して核融合をおこし恒星となる。
4.恒星は核融合および超新星爆発で原子番号100程度までの原子を作る。
5.その約100の原子のうち約40を使って生命を作る。
6.つまり原子は陽子と中性子、電子の3つの要素だけで構成し、その数の違いだけで性質と役割を変える。

以上のことの実現に非常な調整と工夫が必要で、しまいにクォークやグルーオンなども導入して、それでやっと生命を実現した。ちょっと調整が違えば原子すら存在できない宇宙が簡単にできてしまう。この星があり銀河があり生命が存在する宇宙を作るのは存外難しいのだ。

人間の科学者は重力により星が生まれ、それが核融合により点灯することを理論で説明できたことに安心してしまっているが、私は水素があればほっておくと勝手に(都合よく)ぽっぽ、ぽっぽ点灯するような「仕組み」が存在すること自体が怪しくてしょうがない。

彼女は微妙な調整の末にやっと生命を可能にしたのでアミノ酸を使って構成される生命以外の形態はあり得ない。なにしろ原子は100種類しかないし、あまり重い原子は役に立たない。事実、生命を作るのに使っている原子で一番重いヨウ素は原子番号53だ。100種類原子があるとしても約50番までの原子しか使えないということだ。しかもその50の中の40近くを使ってやっと生命が作れるのだ。アミノ酸を材料として使いDNAの仕組みを持つ以外の生命はあり得なかった。

さて彼女の実験の大方針だが、ピタゴラスイッチのように初期条件を設定し(ビッグバン)あとは自然に任せるという実験もあるが、それでは効率が悪すぎる。結局生命ができなかったという実験をいくつもするはめになる。随時必要な干渉はするというのが彼女の方針だった。

先ず生命を作る炉として銀河系を選んだ。超新星爆発が充分な回数発生し密度の高い銀河系中心部に充分な量の100種類の原子が溜まるまで80億年待った。そして、いて座矮小銀河を使って銀河系をゆさぶって太陽系を作った。つぎに間髪を入れず宇宙放射線が飛び交い生命に不都合な銀河系中心部から太陽系を自然の現象にみせかけて引き出し、銀河系中心より7パーセク離れさせ、そこで生命を作って植え付けた。今から30億年前のことだ。

この時に作ったのは単細胞生物だ。えっ知的生命の自然発生実験なのにそんなことをしたらルール違反だって?ルールは彼女が決める。我々より数百兆倍、彼女の寿命が長いにしろ、いくら待ってもDNAの自然発生など無理なのだ。彼女が最初に作った生物にはDNAもリボソームもすでに兼ね備えさせている。そうでなければ自然選択での進化が望めないからだ。そして最初だけ随時アミノ酸を餌として与えた。そうでなければすぐに飢えて死に絶えてしまうからだ。食わなければ生きていけないと言うのは、生命不変の原理である。

そうして25億年ほどたったときに生命は多細胞化した。一度多細胞化すると進化は加速する。さらに数億年待つと恐竜の世になった。つまり今から2億5千万年前のことだ。さらにそれで2億年ほど待った。しかし恐竜には期待したが、その進化は獲物を狩ること、捕食者から逃げることに特化してしまい、袋小路に入り込み、いくら待っても知的生命が現れないことが判明した。ここで恐竜たちに干渉を加え知的生命になるように工作しても良いが、そういう複雑な干渉をすると恐竜が知性を持った後にそのことがばれる恐れがあった。そうでなくても知性を意図して作る実験なら他でもあったし、ここで恐竜に手を加えて知的存在にしたらそういうありきたりの実験と同じことになってしまう。彼女の実験はもっと壮大なものだった。干渉は最小限にしたかった。そこで恐竜を絶滅させて哺乳類に託することにした。どうせばれないので遠くから小惑星を引っ張ってくるなんて面倒はしなかった。地球の上空で小惑星を作っていきなりぶつけてやった。そうこうして哺乳類から1千万年前に猿人が出現して1万年前に文明と呼べる状態まで作るようになった。

これが彼女がしたことの物語だ。

そんな全能の存在を導入して済ませてしまっては、科学はなくなると言うかもしれない。
そんなことはない。彼女だってこの宇宙では物理法則に従っている。たとえ彼女自身がその物理法則を作ったとしてもだ。

ある科学者が試験管の中の液体をペーハー3にして実験をしていたとする。突然その液体のペーハーを13にしたいと思ってそうしたら、ペーハーは13になるかもしれないが、いままでの実験は台無しになるだろう。

彼女だって同じだ。彼女はいったん始まった以上、この宇宙の物理法則を変えたりはしない。だから科学者たちは、よろしくその物理法則を解明すれば良いのだ。解明すべきことはいくらでも転がっている。ただしそれだからと言ってこの世のすべてが解明可能だと考えるのは傲慢というものだ。この世に解明不可能な領域というものがあるということに原理的矛盾はない。

「神は存在するか」 完

ケゾえもん



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