「椿姫 ヴィオレッタ死す」
(ケゾえもん 2023.10.9 記)
椿姫の第3幕の修羅場を説明させて欲しい。
ヴィオレッタの具合はかなり悪い。
医者が来るが、忠実な家政婦のアンニーナが
「先生、いかがでしょう」と聞く。
医者は「結核もここまで進行すると、あと数時間でしょう」と言う。
一度退出したアンニーナ、あわてて戻ってくる。胸が熱くなるような劇的な音楽が流れアンニーナはヴィオレッタに心を落ち着けて聞いてくれと頼む。
「興奮しないと約束してくれますか?」
さっしたヴィオレッタはしかしアドレナリンをいっぱいにして言う。
「アルフレードね!早く、早くお通しして」
アルフレードが駆け込んでくる。
「僕のヴィオレッタ!」
「いつか来てくださると思っていたわ」
「この胸の鼓動で僕の愛をわかってくれ。君なしでは生きていけない」
「アルフレード、教会へ行きましょう」
しかしもう立ち上がることもかなわないヴィオレッタ。
「病気のせいで、めまいがしただけよ。もう大丈夫」
「あーなんて残酷な運命なんだ」
「何でもないのよ、アンニーナ、着替えをお願い」
しかし服を着ようにももう弱り過ぎてそれができないヴィオレッタ。
「アンニーナ、先生にお伝えして。アルフレードが帰ってきたと、だからまだ生きていたいのだと」
ヴィオレッタの悲しみは、ただ自分が死んでしまうということではない。また病気の苦しみがひどいことでもない。ここまでアルフレードを待って待って、せっかく再会できたのに教会に行って愛の誓いをたてることさえもうできない。それどころかアルフレードとしばらく語りあうことさえ許されない。
ヴェルディの椿姫のヴィオレッタ役は非常に強い声を要求される。ミラノスカラ座の聴衆は、マリア・カラスがこの役を歌った記憶が強すぎて誰がこの役を歌っても満足できなかったという。1964年ヘルベルト・カラヤンが指揮をした公演でもヴィオレッタのミレッラ・フレーニーが大ブーイングを浴びて公演失敗。以後1990年に新人ティツィアーナ・ファブリチーニのヴィオレッタが大成功をおさめるまで、スカラ座では事実上この重要演目を上演することができずカラスの呪いと言われた。
ちなみにわたしはファブリチーニのスカラ座日本公演を聞いたけど、オペラ的でなくこの強い声を要求する役をすごく立派に歌うという特殊技能を持った人で、すごい自然なヴィオレッタだなと感心した。また聞いてみたい。CDってあるのかな?
この強い声という性格を持っているヴィオレッタ役であるからひん死の3幕でも強い声で歌いまくる。
あなたが戻っても救えないなら、
他の誰にも私を救えないのよ。
神よ!この若さで死ぬなんて、
あんなに苦しんだ私が死ぬなんて、
もうすぐ長い間の涙を拭えるというのに!
ああ、淡い幻想だったのね、
信じてしまった希望は、
守ってきた真実の愛は、
報われることはないのね!
アルフレード!ああ、なんて悲しい終わりが
待っていたのでしょう!
もし清らかな乙女が貴方に心を捧げたとしたら、
結婚してください。
そしてその人にこの私の絵姿を渡してください。
そして、贈り物だと伝えてください。
天国で天使たちに囲まれ、
あなたたちのために、祈っている者からだと。
だからと言って、ヴィオレッタをうろうろ歩き回らせてはいけない!
さっきも言ったようにヴィオレッタの悲しみと絶望の根源はもう動けないということなのだから。
それをなにを間違えたか、じっとさせておくと間が持たないと思うのか、よたよたうろうろヴィオレッタを歩き回らせる演出を見ると、あーあと思わされてしまう。
私が文句たらたらのメトの赤いずた袋ドレスの椿姫ではシンプルなセットでヴィオレッタが死ぬベッドすらないので、そこらじゅうヴィオレッタは私は死ぬわと言いながら歩き回る。あのクライドボーンのも、2幕まで最高によかったのに、3幕やはりうろうろさせてしまって残念でしたとなってしまった。
そうそう3幕では謝肉祭の日でそのコーラスが外の通りから聞こえてきて、ヴィオレッタはそのお祭りの集団が部屋に入ってくる夢を見る、という場面があるのだけど、あの赤いドレス椿姫では再び上半身刺青だらけ、ちょい悪ジェルモンが登場して、意味不明だけど赤いドレスを着ているもうひとりのヴィオレッタをしばりあげ辱しめるという場面を作ってしまっていて、おーい余計なことをするな!とつい怒鳴ってしまった。
ちなみにこの演出家、家具のないセットなので場面転換がいらない、おー2幕の最後と3幕をつなげてしまおう、名案なりと考えたらしく、2幕最後にヴィオレッタが赤いドレスを脱いでスリップ姿になるんだ。どうして悲観に暮れる衆人環視でヴィオレッタがワンピース脱がないといけないんだよ。ほんとこの演出家あたま悪いよ。
それでそれならフローラの夜会への出席者はどうやって退出させたと思う?
全員3幕前奏曲中によたよた謎の後ろ向き行進で退出。悲しい前奏曲は台無しとなった。歌手たちにこういうことはできないよ。日体大の集団行動じゃないんだからね。(知らない人はユーチュブで見るべし)うしろちらちら見てるじゃないか。みっともない。
3幕において完璧な演出をしたのはやはり、フランコ・ゼフィレッリだった。ゼフィレッリの映画の椿姫は見たことがあったのだけど劇場中継は最近DVDを手に入れて見た。その3幕は圧巻だった。
3幕でゼフィレッリは極めてヴィオレッタの行動を抑制させていてベッドと椅子の間以外のところにはヴィオレッタは行かない。そして後半はどんなに強い声で歌う場面でもとにかくベッドから動かさない。これはまったく正しい。
ケゾえもん
(文中、およびアイキャッチ画像はTDKコア社DVD La Traviata より)