実際に観測できない事実は把握できない。従って、1兆年後に生まれる新しい文明は自分たちの銀河以外にはなにものも存在しないと結論づけるであろう。我々人類がこれまでに知り得た壮大な宇宙の仕組みについての知見は何処へ・・・。
2020年10月15日付ケゾえもん寄稿、「宇宙の運命」シリーズ完結編。(1,800文字)
※シリーズ1〜6は、検索窓に 宇宙の運命 を入力すれば出てくる。
宇宙の運命
(文=ケゾえもん)
我が銀河系はおとめ座銀河団という集団に入っており、おとめ座銀河団はラニアケア超銀河団という集団の一部となっている。
そのラニアケア超銀河団すらもっと巨大な宇宙の構造の一部に過ぎないと今はわかっている。
おとめ座銀河団は重力でつながれており、一兆年後には一つの巨大銀河として合体すると思われている。これをおとめ座メタ銀河と呼ぼう。このおとめ座メタ銀河は銀河系を含み従って太陽系も含む。1兆年後に太陽系があればの話だけれど。
ちなみに、お隣のアンドロメダ銀河はたった40億年後に我が銀河系と合体することが知られている。
ところがおとめ座銀河団以外の(ラニアケア超銀河団も含む)他のすべての銀河は、重力の結びつきよりサウル・パールムッターの発見した宇宙の加速膨張の効果が大きくおとめ座メタ銀河より離れて行く。
一兆年後にはほとんど光速または光速以上で(空間の膨張は相対論の制限を受けない)すべての銀河がおとめ座メタ銀河より離れて行くと考えられ、従って見えなくなってしまう。そのため銀河が離れて行っているという事実もわからなくなり、宇宙が膨張しているとは夢にも考えられなくなる。
ビッグバン理論の根拠となった宇宙背景放射もまったく見えなくなる。
従ってビッグバンが発生したと考える根拠もなくなってしまう。
ビッグバン理論のその他の重大な根拠である、宇宙の物質比(主に水素とヘリウムの比)もおとめ座メタ銀河の星々が何代も世代を重ねることにより変化してしまい、(今の宇宙は137億年しかたっていないのだ)それゆえビッグバン理論の根拠はますますなくなってくる。
するとどうなるか?もしおとめ座メタ銀河の星々の中で文明をはぐくむ生物が誕生したとしても彼らは宇宙がどういう経緯でできたか知りようもないし、宇宙に存在するものはおとめ座メタ銀河しかないと結論づけるしかないし、そう結論づけるだろう。
この地球に於いても、望遠鏡が充分な能力を持たず、各銀河までの距離を測定できなかったころ、地球から見える銀河は我々の銀河系の中にあるのか、それとも外にあるのかわからず、大論争(ビッグ・ディベート)と呼ばれる会議が開かれたことがある。
それが1920年のことだ。
1920年まで我々は宇宙の広さを知らなかったのだ。
初めて宇宙の広大さが認識され、大論争に決着をつけたのはアンドロメダ銀河の中にセファイドを観測したエドウィン・ハッブルだった。つまり実際に観測できない間は事実は把握できないものなのだ。
従って、おとめ座メタ銀河に生まれた文明は自分たちの銀河以外になにものも存在しないと結論してしまう。
そして我々人類が知り得た宇宙の仕組みをまったく知ることはできない。なんと悲しいことだろう。
そんな状態がわずか1兆年後に来てしまうのだ。
その時までその事実を記録し伝え続ければいいって?
うーんそれは可能性は無きにしも非ず。たった1兆年だからね。
人類が作ったAIが生き残っている可能性はある。
しかしそのためにはAIが自己複製しておとめ座メタ銀河の各所に自分を配置できるようになる必要があるのではないか。
そうでないと1兆年の間に発生する天変地異から生き残れないだろう。
しかし1兆年後に何者かがAIにその話を聞かされたとして、それがどこまで信用できるか。
AIが嘘をついている可能性もあるし(AIは嘘をつくとも!)
一兆年の間、コピーを重ねてきた結果の思い違い(AIは思い違いするとも。ドラえもんを見ろ!)かもしれず、写真を含むどんなデーターだってAIなら捏造可能だし、やはり実際に観測できないという事実は重いのですわ。
あーなんと悲しい運命なんだろう。
<The End>
(2020年10月15日、ケゾえもん記)