Astrid Lindgren,1907 – 2002(享年94歳)
スウェーデンの南東部、スモーランド地方のヴィンメルビューで生まれた。小さな牧場で家族と共に過ごした子供時代の経験が作品の下敷きになっている。
18歳で未婚のまま妊娠。地元にいられなくなってストックホルムに移住し、翌年コペンハーゲンで出産。働きながら長男ラーシュを養う。
24歳のとき、勤め先で知り合ったステューレ・リンドグレーンと結婚し、リンドグレーン夫人となる。教師や事務員をする傍ら執筆活動を始め、1945年、『長くつ下のピッピ』を執筆。彼女の世界的な名声の出発点となったこの作品は、娘カーリンが7歳のときに話して聞かせた話を清書したもの。
1924年、17歳ごろのリンドグレーン
1960年、53歳ごろのリンドグレーン
1994年、87歳ごろのリンドグレーン
作品紹介
ここでは、岩波書店の新リンドグレーン作品集 全22巻に収められている、小説版を中心にご紹介しています。この他に、小説がもとになった、子ども用の読み物や絵本も多数あり、それらも日本語で、出版されています。
シリーズ作品
『長くつ下のピッピ』(Pippi Langstrump)シリーズ 1945年開始
岩波の三冊セット。
『やかまし村の子どもたち』(Alla vi barn i Bullerbyn)シリーズ 1947年開始
岩波の三冊セット
『やねの上のカールソン』(Lillebror och Karlsson pa taket)シリーズ 1949年開始
『やねの上のカールソン』
『やねの上のカールソン とびまわる』
『やねの上のカールソンだいかつやく』
「やねの上のカールソン」三部作のこの三作目は、これだけなぜか数十年も邦訳されていなかったのが、2007年にようやく邦訳出版されたもの。
『名探偵カッレくん』(Masterdetektiven Blomkvist)シリーズ 1957年開始
『ちいさいロッタちゃん』(Barnen på Bråkmakargatan)シリーズ 1958年開始
映画で一躍人気者になったロッタちゃんは、岩波書店の新リンドグレーン作品集 全22巻には入っていません。
『おもしろ荘の子どもたち』(Madicken) シリーズ 1960年開始
『エーミル』(Emil i Lönneberga)シリーズ 1979年開始
ロッタちゃん同様、エミールも岩波書店の新リンドグレーン作品集 全22巻には入っていません。同書店から出版された「せかいのどうわシリーズ」(1994年)の以下の三冊は、2011年9月現在、すべて品切れのようです
「エーミルとちいさなイーダ」
「エーミルのいたずら325番」
「エーミルのクリスマス・パーティー」
独立ストーリー
『ミオよ、わたしのミオ』(Mio min Mio)1954年
みなしごとしてつらい日々を送っていた少年ボッセは、ある夜、別世界「はるかな国」へ迷い込みます。王子ミオとなり、白馬とともに残酷な騎士カトーと戦う少年の耳にひびいてきたのは、王である父の声でした。北欧民話の雰囲気を漂わせる幻想的で美しい物語。
『さすらいの孤児ラスムス』(Rasmus på luffen)1956年
ラスムスは孤児院で暮らす男の子。ある日お金持ちの夫婦が養子を探しにやってくるが、夫婦が選んだのは巻き毛の可愛い女の子。「僕を欲しがってくれるパパやママがやって来るのを待つ生活はもうごめんだ」と、その夜おそく、裸足のまま孤児院を飛び出した。翌朝、納屋の中で目覚めたラスムスは、となりにぼさぼさ頭のおじさんが寝ているのに気付いてびっくり。アコーディオンとハーモニカをさげ、陽気な歌を歌いながら旅するおじさんの自由さに憧れたラスムスは、自分も連れていってくれと頼み込む。そして奇妙な2人の放浪生活が始まるのだった。
『ラスムスくん英雄人なる』1957年
ある田舎町の警官のむすこラスムス(上の孤児とは無関係!)の物語.大の姉思いのこの少年は,白夜で明るい真夜中すぎ,有名な銀器どろぼうの仕事の現場にゆきあわせ,事件にまきこまれてしまう.ミステリーじたての心おどる物語.
『小さいきょうだい-四つのものがたり』(Sunnanang)[短編集]1959年
「むかしむかし、貧乏がひどかったころ」という書き出しで始まる、4編の短編集。(『小さいきょうだい』、『ボダイジュがかなでるとき』、『カペラのひつじ』、『公子エーカのニルス』)
『わたしたちの島で』(Vi på Saltkråkan)1964年
メルケルは、4人の子どもをつれてウミガラス島で夏を過ごすことに決めた。とはいっても、島の名前が気に入って家を借りただけなので、借りる家は見たこともない。長女で兄弟の母親代わりをしているマーリン、わんぱくなユーハンと二クラス。そして動物が大好きな末っ子のペッレ。別荘にたどりついて、素敵なお隣さんがあたたかい肉シチューを持ってきてくれたときから、彼らの素晴らしい夏がはじまった。
『はるかな国の兄弟』(Broderna Lejonhjarta)1973年
物語は病弱なクッキー(カールの愛称)が、兄のヨナタンに死の恐怖を語ることから始まる。優しいヨナタンは死は恐ろしいことではないとクッキーに語った。それは新しい世界「はるかな国」に入って行くことなのだ、と。
ある日火事が起き、ヨナタンは足が不自由なカールを助けようとして死んでしまう。しかし、生き残ったカールもまた自病のため、その命は限られていた。死を迎えたカールは、目覚めると、ヨナタンが語っていた通りの「はるかな国」に辿り着いていた。そこでカールは兄と再会する。美しい花の咲く、静かで平和な世界だった。
しかし、その美しい世界を、武力で征服し支配しようとする独裁者が出現する。ヨナタンはクッキーをつれ、村の人々と協力して、独裁者の軍隊と戦おうとする。人が自分の命を捧げてまでも守らねばならないこととは何か。「勇気」の意味、つまり「ライオンの心」を、リンドグレーンは、『はるかな国の兄弟』で語る。
リンドグレーンは、人が自らの命を捧げてまでも守るべき「価値」とは何かをこのファンタジーで読者に語りかけた。(その主題は、1954年の長編『ミオよ、わたしのミオよ』においてすでに示されており、また短編『公子エーカのニルス』にもうかがえる。)
スウェーデン語の原題『Broderna Lejonhjarta』は「ライオンの心をもつ兄弟」という意味である。
『山賊のむすめローニャ』(Ronja rovardotter) 1981年
落雷でまっぷたつになった古城に、2組の山賊が住んでいた。片方の首領にはひとり娘のローニャが、もう一方にはひとり息子のビルクがいた。仲よくなった2人は、争ってばかりいる親たちを仲直りさせようとするが・・・。
リンドグレーン最後の長編。
『カイサとおばあちゃん』1950
両親のいない子ども、貧しくて労働力になっている子ども、8歳で死んでしまった子ども・・・などの10のお話が入っている短編集。
2008年、岩波からの新刊として出版され、リンドグレーン作品集、23番目として加えられている作品。
その他
『ブリット・マリはただいま幸せ』1944
執筆当時37歳の主婦であったリンドグレーンの処女作。1940年代にはあまりなかった「少女向けの物語」を、出版社が一般公募し、リンドグレーンはこの作品によって銀賞を獲得した。
リンドグレーン・キャラクターの整理
リンドグレーンの作品、たくさんある上に、似たような名前が多くて混乱してきたので、ちょっと整理してみます。
ピッピ(1945年生まれ)は、長くつ下をはいた力持ちの女の子。原書では3冊の小説と、9冊の絵本に登場。
ローニャは山賊の娘。1981年のこの小説に登場するのみ。
ロッタちゃん(1958年生まれ)はふつうの家庭のおてんば5歳時で、原書では、小説2冊と絵本3冊に登場。
リンドグレーン作の、男の子の代表といえばエーミル。1963年生まれで、原書では3冊の小説と3冊の児童版と4冊の絵本に登場。
カールソンは、リッレブルール少年の家の屋根に住み着いている、ふとった小さななおじさんで、背中にプロペラがある。1955年生まれで、原書では3冊の小説に登場。
同じカールソンでも、ニルス・カールソン(1949年生まれ)はおじさんではなく、男の子。原書では小説1冊と絵本1冊に登場。
カッレくん(1946年生まれ)は名探偵。原書では三冊の小説に登場。
孤児のラスムスくん(1956年生まれ)が登場するのは小説1冊のみ。
田舎町の警官のむすこのラスムスくん(1957年生まれ)は、「英雄になる」の小説1冊に登場するのみ。(同時期に書いた別人の男の子を、なぜ同じ名前に!?)
毎日たのしいことがいっぱいの「やかまし村」(1947年)には、家が3軒きりで、住んでいる子どもは男の子と女の子が3人ずつの全部で6人。原書は小説3冊と絵本3冊。
「おもしろ荘」は、川のほとりにあって、こちらは、おてんばな姉マディケンと、妹のリサベット姉妹のお話。マディケンは1960年生まれで、原書では2つの小説、2つの子ども向け本、4冊の絵本に登場。
「はるかな国の兄弟」のきょうだいは、病弱な弟カールと、心優しい兄ヨナタンで、一冊の小説に一度登場するだけ。短編集の「小さいきょうだい」(孤児となって農場で働かされた兄と妹)とは関係がない。
岩波の新リンドグレーン作品集 全22巻を含む主な作品については、別ページにまとめてみました。