最近見た演出のひどいオペラ「椿姫」、赤いワンピース篇
(ケゾえもん 2023.9.26 記)
リリー・コリンズ主演の「エミリー、パリに行く」という連続ドラマを見たことがあるだろうか。妊娠して行けなくなった上司の代わりにパリに赴任されて大活躍するぶっとび女の子エミリーの話だ。
第1話を見て私は仕掛けがすぐわかったよ。エミリーは普通のOLなら買うことが不可能な最先端ファッションをいつも着ていて、しかもそれは普段着なのだ。
エミリーは同じ服は二度と着ない。でも普段着なので誰も服のことは言わない。それがこのドラマのお約束。だれかがこういうファッションを1年間着続けるとすると約1700万円かかるという試算を出していたが、この最先端ファッションを見ることがこのドラマの大きな楽しみになっている。
一方、わたしが文句たらたら言っている椿姫だ。このオペラに出て来る女性は前述の様にヴィオレッタひとり。夜会の場面で赤いワンピースを着ている。あえてパーティー衣装でなく、シンプルなワンピース、しかし豪華に見える生地をつかい、いろいろやらせるので着脱がスムーズでなければいけないってのがメトの衣装部へのこの演出家の注文だろう。そんなのお見通しだよ。
この赤いワンピースは、たったひとりの女性であるヒロインの衣装を楽しむ娯楽さえうばった。縫製と生地の選択が悪くてまったくしなやかでない。分厚そうなやぼったいストラップ部分はすぐ体から離れようとする。見てるだけで不快で不快でたまらないワンピースだった。
あのね、こういうシンプルなワンピースってのが服飾で一番きびしいジャンルなのよ。もともとメトの衣装部には荷が重い。女ひとりだけだろ? 一着あればいいんだろ? メトの椿姫で使うって言ったらきっとディオールがオートクチュール作ってくれるよ。(既製品のディオールはこの歌手着れないおそれがある)300万円くらいの予算を回せよ、それだけのことあるからって言いたい。
もしヴィオレッタがディオールを着ていたら、それだけでどれだけこのオペラ救われたろう。
たとえばワンピースでなくても赤いブラウスと白赤チェックのタイトスカートのヴィオレッタなんてすてきじゃないですか。(パーティー衣装が嫌だと言うのであれば)
オペラは昔はよかった。昔、藤原歌劇団が正月恒例として椿姫を毎年1月に公演していた時期があって、毎年やるので衣装もセットも出演者もものすごくこなれてきてた。
1990年になんとヴィオレッタをイレアナ・コトルバスが歌った年があった。生きてるヴィオレッタがそこにいると思ったね。2幕2場でアルフレートが「今お前に金を返す!」と叫んでヴィオレッタに札びらびんたしてしまう場面で悲しみのあまりヴィオレッタは失神するんだけど、コトルバス勢いつけ過ぎてひっくり返り、伝統的パーティー衣装のスカートがまくれてしまった。それをフローラ役の持木文子が、あーかわいそうにとちゃんと演技しながらスカートのすそを直すファインプレーをしたのを思い出す。
ケゾえもん
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