「日本のいちばん長い日1967年版を観る前に」
(文=ケゾえもん)
「日本のいちばん長い日」2015年版をガールフレンドと見た。見終わった後に彼女が文句というか質問をして「タマネギ軍団が活躍するような場面がないが、するとそれは1967年版で見れるのか」と聞く。しかしあいにくであるが、わたしが「戦争映画とコロナのアナロジー」で書いたのは、この「日本のいちばん長い日」の台本を私が書くとするとどういう風になるであろうかであって、決してこの二つの映画のあらすじではなかったのだ。
もちろん普通に読めば映画のあらすじを言ってるんだと勘違いするんであろうが、わたしゃ思ってることをぐいぐい書いているだけなので、(いつもそうだ)そこのところはごめんねというわけである。
さて、我々はこれから1967年版を見ることになるのだが、どうも彼女の理解力が足りないようなので予習としてこの日何が起こったかについて簡単に説明したいと思う。
その前にこの8月15日にたどり着くまでのいきさつを、私なりにまとめてみたいと思う。ものすごく、はしょって説明する。
アメリカ合衆国と戦争を開始した日本であるが、戦線は広大だった。
アリューシャン列島(アッツ島がある)、ソロモン諸島(ガダルカナル島がある)、タイ、ビルマ、マレー半島、シンガポール、フィリピン(ルソン島、レイテ島)、ボルネオ島、サイパン島、テニアン島、グアム島。
そして中国本土、台湾、朝鮮半島。なんでこんなに広大な地域で戦わないといけなかったか私は知らない。
ミッドウェー海戦(ハワイの1000キロ日本寄りの太平上の真ん中)でほとんどの空母と熟練航空機搭乗員を失った日本はその後、制空権、制海権をなくし、補給もままならず、餓死と玉砕を繰り返し200万人の将兵を殺すことになる。
サイパン、テニアンを奪われた後(日本軍は撤退時滑走路に迫撃砲で200近い穴をあけたそうだが、米軍は24時間で修復したという)B29爆撃機が大挙して日本本土に爆撃に訪れるようになり、東京を含む日本各地は焦土と化す。
そして1945年7月には日本は戦争遂行能力をほぼなくしていた。そこに米国、英国、中国の連名で日本に降伏勧告(ポツダム宣言)がされる。しかし特に陸軍は敗戦を承知しない。その時陸軍から日本国民に出た命令は日本本土に米軍が来たら竹槍を持って戦え、米国軍人は腹が弱点だからそこを狙って刺せというもので、つまりは全員死ねということだった。
陸軍に気をつかう(そうでないとクーデターされる)鈴木首相は7月28日の記者会見でついつい「ポツダム宣言を黙殺」と言ってしまう。その結果、8月6日に広島に原爆が落とされる。日をおいて長崎にも落とされた。
遂に天皇は終戦の決定(聖断)をするが、これは天皇とは言えタイミングを見る必要があった。確かに天皇には絶対的権限があったが、陸軍の多くの将校にしてみれば天皇裕仁は現在の天皇に過ぎず、一番大切なのは万世一系の天皇を戴く<国体>であって、国体のためなら現天皇を除くこともあり得るという考えだったのだ。
そして8月14日にポツダム宣言受諾を連合国に回答する日が来た。しかしこれはただ回答するだけではだめで、日本側の手続きとして閣議決定、天皇のハンコをもらう、閣僚全員の署名などが必要でこれがもめにもめた。陸軍大臣と海軍大臣がけんかなんかするからわけがわからない状態になったのだ。
とにかくすべてが終わったのが午後11時。長い日だった。しかしこれから日本のいちばん長い日が始まるのだった。
閣議は終わった、その直後、天皇が国民に日本の降伏を宣言する放送の録音をした。
日が変わって8月15日になり午前1時、畑中少佐、椎崎中佐、窪田少佐、上原大尉らが森近衛師団長を殺害。師団長印を使用して偽命令書を作る。それによれば「皇居を占領し外周に対して皇室を防御スベシ」 畑中少佐は直ちにこの命令書を持って皇居に出向き、芳賀連隊長にこの命令書を見せる。芳賀連隊長はこの命令は、東部軍、近衛師団が結束して天皇に対して降伏の翻意をお願いする作戦と理解、ただちに皇居を封鎖する。畑中少佐はこれは森師団長、阿南陸軍大臣、田中東部軍司令官も承知でまもなく3人共に皇居に来ると嘘をつく。しかしいつまでたってもその3人が皇居にやってこないので、次第に芳賀連隊長が疑い出し、畑中少佐、椎崎中佐は苦労しはじめる。
そして、最後に田中東部軍司令官が皇居に駆け付けすべてを治めるのが午前6時であった。兵は命令によって動いているだけなので、上からの命令には従うのである。
ふーむ、これだけ知ってれば、より映画も興味深く見れるであろう。
私の彼女の仰天するところだけど、歴史もの映画の理解を深めるためにその後の展開を親切に説明しようとすると「ストーリーを先に話すな」と怒るんだぜ。だってよ、歴史的事実を話してるだけなんだぜ。びっくりしちゃうぜ。
(2021年4月28日、ケゾえもん記)
■関連記事:【コロナ寄稿】戦争映画とコロナヒステリーのアナロジー(ケゾえもん)