(2023-10-26 ケゾえもん記)
私自身でオペラを聞くとき各オペラで自分自身への聞かせどころというのを持っている。たとえば椿姫の3幕でアルフレートとヴィオレッタの再会の場面だ。
奥様!
どうしたの?
今日は本当に
気分がいいのですね?
ええ、なぜかしら?
興奮しないと約束してくれますか?
いいけど、何が言いたいの?
心の準備をしてほしかったのです、思いがけぬ喜びの。
喜びですって!そう言ったのね?
はい、奥様。
アルフレードね!お会いしたいの?早くお通しして。
(アンニーナは頷いて、扉を開けに行く)
アルフレード!愛するアルフレード!
僕のヴィオレッタ!
僕が悪かった、全て分かっている、愛する人よ。
いつか来て下さると思っていたわ。
この胸の鼓動で、僕の愛を分かってくれ、
君なしでは 生きていけない。
ここの部分の音楽を聞くと私は自動的にアドレナリンが大量にでてくることになっている。そういう音楽がついている。
薔薇の騎士では1幕最後の場面が好きだ。
もともとこの恋愛には問題がある。不倫であること。歳の差大きいカップルであること。女の方が年上だということ。絶世の美女と褒めそやされた自分ももう32歳で当時としては容色も急激に衰えるころであること。
そんな中で元帥夫人はオクタヴィアンに別れのキスもしなかったことを後悔する。あえて説明するがこれは特別なキスではない、ただの挨拶のキスという意味である。しかし以上の様な背景による不安定な精神状態を持っていることにより、愛する人を別れのキスなしで帰したということが突然耐えられなくなったのだ。
その瞬間リヒャルト・シュトラウスはとんでもなく劇的な音楽を打ち鳴らす。
元帥夫人は武官を呼ぶ。優秀な直属の武官ファビオは駆け付ける。
「伯爵に用事があるの。すぐ呼び戻して!」
ファビオはただちに廊下を突っ走り外に出る。そこには厩務員が立っている。
「伯爵はどこにおられる!」
「もう出発されました」
ファビオは手近な馬に飛び乗り200メーター先の門まで走る。門番の衛兵たちは猛スピードで走ってくるファビオを見て門を開け放ち敬礼する。ファビオがそこで止まり確認すると、遥か先の街道をオクタヴィアンが愛馬ディープインパクトに乗って若さに任せて疾走するのが見える。ディープインパクトは一晩厩務員の手厚い世話を受けて最上のかいばも与えられ、おまけにおやつの野菜まで食べさせてもらい元気いっぱいだ。
伯爵の馬は名馬だ、自分も乗馬の名手であるが自分は手近の馬に飛び乗ったので鞍も鐙もつけていない状態だ。これでは無理だ。しかし伯爵も自分の領地までずっとあのスピードで走り続けるわけではないだろう。
取って返したファビオは厩務員に馬を用意しろ!と叫んで元帥夫人のところに戻り手短に起こったことを報告する。
「もしよろしければ、今から・・・」
「もういいわ」
その一言でファビオは一礼すると元帥夫人の部屋から下がるのだった。
しばらく物思いにふけった元帥夫人は最近大事に育てている気のきく子供の小姓モハメットを呼ぶ。
オックスが預けて行った結婚式で薔薇の騎士が使う銀の薔薇の入った箱をモハメットに渡す。
「これからファビオといっしょに行ってロフラーノ伯爵のところにこれを届けてちょうだい。伯爵はご存じのはずよ。一部始終をそばで聞いていらしたから」
恋愛の運命を変える銀の薔薇はオクタヴィアンの元に向かったのであった。
それで1幕が終わる。
こういう情景が思い浮かぶような、すばらしく想像力を刺激させる音楽をリヒャルト・シュトラウスは場面場面でつけてくれている。
(ファビオは私の創作の人物である)
(ディープインパクトは実在した同名馬とはなにの関係もありません)
(ケゾえもん)
※アイキャッチ画像の出典はこちら