※ 2005年、スイスに住んでいたときに別のサイトで公開した内容です。
日本から送られてきた新聞の切り抜き記事によると、「2005年版生活の質ランキング」(米コンサルタント会社調べ)で、スイスのジュネーブとチューリヒは「世界で一番質の高い生活を享受できる都市」に選ばれたそうです。これは治安、医療、住宅、気候、環境、個人や報道の自由、天災件数などで判断した結果で、参考までに日本の都市では、東京がシンガポールと並んで34位、横浜が36位、神戸が39位にランキング(世界215都市の中で)入りしています。
わたしは、チューリヒ市内に住んでいますが、都会の便利さと環境のよさを同時に味わえる点では、たしかに「質の高い生活を享受」していると感じます。交通網が整っていて(時間も正確)、街中を網羅している路面電車で、どこに行くにもほとんど歩かず行ける便利さ。清潔さ。そして、中心部でもすぐ近くに森や湖があるので、空気もとてもきれいだし、景色も素敵です。近所の湖畔や森には、いくつものお散歩コースがあります。また、治安もよいので真夜中の一人歩きも安心です。作家のジェームス・ジョイスはスイスを「精神の自然公園」と呼んだそうですが、深層心理学を学ぶにも最適な場所であるように思えます。
でも、「質の高い生活を享受できる都市」は、「物価のとっても高い都市」でもあります。すべてのものが高いのです。たとえば、駅のトイレ使用料が200円。キオスクの 500mlの水のペットボトルが350円。ジュースだと400円。ファックスを市内に1枚送ってもらって500円から場所によっては700円。(電話代自体は高くないのに。)・・・などなど、「少額とはいえ高すぎる~」と思えるものがたくさんあります。経済誌(The Econimist June 2005)が発表した「ビッグマック・インデックス」では、マクドナルドのビッグマックの価格がアメリカ3.06ドル、日本2.34ドル、EU諸国3.58ドルに対してスイスは5.05ドルでした。海のないスイスで魚が簡単に手に入らないのはわかりますが、牧場はたくさんあるのに肉の値段もEU諸国の5割増しです。
この国では、わたしは外食と買い物という、「人生の二大楽しみ」を気軽に“享受”できません。「物価の高い国」というと、スイスだけでなく、イギリスや東京も並んで挙げられますが、住居費などを比べれば似たようなものでも、外食と買い物に限っていえば、質さえ落とせばイギリスにも東京にも安いものがいくらでもありますが、スイスにはありません。たとえば、どんなに安いランチでも、レストランで食べれば2,000円はします。かろうじて、スーパーやデパートの中の、買い物客用のフードコーナーのようなところなら1,500円で食べられるでしょうか。学生食堂のほとんどエサといってもいようなランチだって1,000円です。立ち食いのケバブでも900円もするので、飲み物と合わせると「買い食い」でも一食、1,000円以下でおさえることは難しいのです。したがって、ふだんできるのは、お茶かピクニックぐらいになってしまいます。そして買い物(衣類や雑貨)ときたら、バラエティもないし、ろくでもないものがびっくりするような値段で売られていたりします。
*2011年追記:2010年、スウェーデンに引っ越してきて、外食の楽しみができました!
とくにランチの充実ぶりときたら、田舎の町でも、選択に迷うほど。いつでも安くておいしいランチが食べられることには感動しました。お寿司やさんの数と質も、スイスとは比べ物になりません。
ちなみに、「買い物」は、スイス人にとって娯楽とは考えられていません。洋服なら「あれば」よく、それが流行遅れかどうかを気にする人はあまりいません。週末は、商店街はお休みで、スイス人の場合は、「本当にただ歩くだけのお散歩」に出かけます。
*2011年追記:スウェーデンに引っ越してきて、買い物生活も断然向上しました。スーパーが年中無休で、週末に備えて買いだめしなくていいというのは、日本人にとって当たり前のことでありながら、スイスから引っ越してきた者にとっては画期的です!
こんなに物価の高い国で、みんなどうやって生活しているのかと思ったら、スイス人はお金持ちなのです。2004年の報告によると、スイス人の納税者の25人にひとりが百万フラン(約9000万円)以上の財産を持っているそうです。年金年齢である65歳以上になると、なんと 15%もの人が百万フランを超える財産を持っているということです。どうりで、街中を、日本ではそれほど見かけない高級車がびゅんびゅんとふつうに走っているわけです。フランスのパリなどではよく見かけるホームレスの人の姿も、スイスで見ることはまずありません。