ニューヨークタイムズを始めとするメディアが、スウェーデンのコロナ対策は失敗だったと声高に言っており、日本でも「命も経済も救えなかったことが明らかに…ロックダウンしないスウェーデンの戦略」という見出しの記事等が出回っているそうだ。
この状況に対し、スウェーデン人のジャーナリストが「ニューヨークタイムズの指摘にはいくつかの重大な誤りがある」という記事を発表し、ツィッターでニューヨークタイムズの記者と直接やりとりしている内容も公開している。
ホクオ自身は、ここに書いたとおりの夏休み気分でコロナのことは忘れてのんきに暮らしているのだが、日本で関心を持たれている方のために紹介しておく。
以下は、“Multiple errors in the New York Times article about Sweden’s corona strategy” by EMANUEL KARLSTEN on JULI 10, 2020の内容の一部をホクオが意訳したもの。
なお、この記事は、ホクオに「スウェーデンのコロナ政策は失敗した」というアメリカメディアの記事をじゃんじゃん送ってくれるアメリカ人に見せたところ、「彼の指摘はすべてマトを得ていると思った。」と言っていた。
世界でもっとも影響力のあるメディアがここのところこぞって、スウェーデンのコロナ政策を叩いている。スウェーデン人のわたしが身びいきしていると思われるかもしれないが、そこで書かれていることの多くは、事実をゆがめられた内容になっている。たとえば今回のニューヨークタイムズの記事は、FaceBookでも40万人近くの反響を呼んでおり、間違った内容が繰り返されながら世間に認知されているのを見過ごすわけにもいかないので、以下、いくつかの重大な誤解を指摘しておきたい。
エマニュエル・カールステン(Emanuel Karlsten)
Contents
重大な事実の誤認:スウェーデン政府は経済を守るためにロックダウンしなかった
包括的に記事全体に見られるこの前提は誤りである。経済を守ることは、スウェーデンのコロナ戦略の目的として掲げられたことは一度もなく、つねに人命が最優先にされたことは間違いない。たんに長期的な視点で無理のないやり方が選ばれたにすぎない。
重大な事実の誤認:スウェーデンのコロナ被害はアメリカを上回る
統計の比較時期に疑問が残る。アメリカの被害はスウェーデンに遅れて発生しているにも関わらず、スウェーデンのピーク時期とアメリカのピーク前とのデータ比較が行われている。またスウェーデンが公表している「コロナ死者」の数字には、死因がコロナでなくても、死亡30日前までに感染していればそれも「コロナ死者」として扱っている上、国民背番号制でカウントに漏れがない。一方、アメリカの統計は、「コロナ死者」の定義そのものにも一貫性がなく、当初言われていた数が大きく変わったりしている。なお、スウェーデンでは現在の全体的死者数は、コロナ前の数値に戻っている。
重大な事実の誤認:スウェーデンは近隣諸国と比較してコロナ死者が圧倒的に多い
これは正しい。しかしスウェーデンは大きい。もし似たような人口の地域どうしで比べたら、結果は違ってくる。たとえばデンマークのシェラン島(コペンハーゲンも含まれる)とスウェーデンのスコーネ地方を比べて見ると、両者は、間に幅の狭い海を挟んだ近距離にあるが、コロナ死者はスコーネ地方の方が圧倒的に少ない。そもそも地方別に比較する方が、国どうしで比較するよりも、理にかなった比較だと思われる。
重大な事実の誤認:スウェーデン人は、まったくいつも通りの生活を通した
周りから見るとそう見えるかもしれないが、そんなことはない。街の中心部やレストランはガラガラになったし、何十万人もが在宅勤務になったし、年寄り、リスクグループの人に会うことは控えた。多くの人が職を失い、もっと多くの人は自宅待機になった。こういったことは、ルールで縛られなくてもみんなやったのだ。
重大な事実の誤認: スウェーデンの消費の落ち込みは、ロックダウンをしたデンマークと変わらない
このデータはDanske Bankが出したものだが、この銀行はデンマークには多いがスウェーデンにはあまりない。ニューヨークタイムズはそれを明記するべきである。たとえばスウェーデンを拠点にするSEB銀行のデータによると、以下のように、スウェーデンの消費の落ち込みは、近隣諸国に比べて少ないという結果である。
そもそもこのニューヨークタイムズのレポーターは、4月17日の時点でスウェーデンのコロナ政策を「キチガイじみている」と自分のツィッターで批判しており、そのようなバイアスのかかった見方をしているようにも見受けられる。