【ケゾえもんオペラ寄稿】プッチーニのオペラ、ラ・ボエームについて話したい

(2024-1-27 ケゾえもん記)

プッチーニのオペラ、ラ・ボエームについて話したい

1830年ごろ文学青年、芸術家たちがパリの安アパートで、助け合いながら貧しい生活をしていた。こういう人たちを当時bohemeと呼んだらしい。語源はボヘミアンだ。ある晩ロドルフォは一人で部屋にいた。すると別の部屋に住む美しい娘(ミミ)がノックする。ろうそくの火を貸して欲しいということだ。それが縁でふたりは仲良くなり、そして喧嘩、再び仲良くなり、そして別れる。最後に別れたのは、やはり喧嘩だが、肺結核のミミがこの貧しい生活に耐えられないだろう、以前のパトロンのところに行った方がミミのためだと考えたからだ。最後、パトロンのところを逃げ出したミミが路上で倒れていたところを仲間に発見され、元のアパートに運びこまれるがミミは死んでしまう。

どうしてイタリア人のプッチーニのオペラの舞台がパリなのかと言うと、もともとプッチーニはご当地ものオペラを書く人で、

トゥーランドット:中国北京
マダムバタフライ:日本長崎
西部の娘:合衆国カリフォルニア

などがある。

さてミミがろうそくの火を借りにくる場面だが、オペラ史上に残る美しい場面でここで歌われる男女のふたつのアリア「なんて冷たい手だろう」「私の名はミミ」は演奏会でもしばしばチョイスされる有名曲となっている。

この場面での最高の歌い手と言ったらミレッラ・フレーニーでカラヤン指揮のDVD映画が発売されているが、もう信じられないほど美しい声だ。この映画での2幕1場で友人にロドルフォが嫉妬深いのをなげく場面など本当に人間の声とは思えない美しさでユーチューブで聞けるから「ボエーム カラヤン」で検索して是非聞いて欲しい。なんと言うかな、人間のぶよぶよした組織から出ている音でなく、まるで金管楽器や音叉から音が出ているような堅牢さを感じるんだ。だからと言って無味乾燥な声だと言っているわけではもちろんない。

このカラヤン指揮、ゼフィレッリ演出、フレーニーがミミの高音質DVD映画は映像付きラ・ボエームの決定版と言える。

ミレッラ・フレーニーは2020年に亡くなっている。1935年生まれ。ファントムの海賊版でサントリーホールでのリサイタルでこの「私の名はミミ」を歌ったのが高音質で聞けるがこの時53歳。さすがの歌唱でばけものではある。しかし今調べられないがこれより何年か後に新国立でのラ・ボエームに出演したときは良くなかった。別に破綻があったわけでなく、普通に拍手喝采を浴びていたが、私にとってミレッラ・フレーニーレベルではなかったということで、残念だったが、年齢を考えるとしょうがない。(ある程度の年齢で海外からやってくる場合、喉のコンディションが悪かったということも考えられるが)

こういうことは良くあることで、プラシド・ドミンゴがオテロを歌うということでいそいそチケット買って行ったがもう昔のドミンゴ(私はその20年前にリサイタル聞いてその実力に腰を抜かした)ではなかった。歌手というのは肉体で勝負するのだから仕方ないと言えば仕方ない。

それにしてももう引退する、これが最後だと日本にやってきてヴィオレッタを歌ったイレアナ・コトルバスおばさんは100%私を満足させてくれた。この人もばけものだ。

ミレッラ・フレーニーエピソードを3つ。フレーニーは若いのに演奏会ですばらしい歌声を披露し続けていて、ある指揮者にこのままでは早晩喉を傷める、充分成長するまで歌うのは止めろと忠告され、それに従った。その指揮者の忠告をうけたのが10歳の時。再び歌い始めたのが17歳のときらしい。

フレーニーは前にも書いたがマリア・カラスのヴィオレッタでないと納得できないスカラ座で敢えて(椿姫の)ヴィオレッタをカラヤン指揮で歌ったが結果このコンビでもだめで大ブーイングを浴びてしまった。この時ことさら妨害するようにブーイングする、通が集まる天井桟敷の客をフレーニーは敢然と睨みつけたそうな。

前述のサントリーホールのリサイタルでバックのオーケストラを指揮する指揮者に対してフレーニーは完全に上から目線。もう少し指揮者をたててもいいのではと思ったりしたが、後でわかったけどこの指揮者は息子だったのだ。

ところでレントというブロードウェイミュージカルがある。これはラ・ボエームから着想を得たものでストーリーを説明すると

ニューヨークの元は倉庫の賃貸物件に貧乏な若者たちが助け合いながら暮らしていた。あるときロジャーがひとりでいる時、ろうそくの火を貸して欲しい(電気代が払えないから電気止められている)と別の部屋に住むミミという娘がやってきて、二人は仲良くなり、そして喧嘩、ミミは出て行くがHIVポジティブのミミは不養生がたたってエイズになり道端で倒れているところを仲間に発見され、ロジャーを含むみんなのいるところに運びこまれるが死んでしまう。

というストーリー。熱狂的レントファンの人は多いから、これではストーリーの説明になってないと言われるだろうけど、おいおい説明するから勘弁してよ。レントはね、いろんな要素がからみあっていて説明大変なの。アパート立ち退き問題、エイズの問題、ゲイ、レズビアンの問題。これらが組み合わさっていて、私は映画で勉強したからわかってはいたけど、レントがオフブロードウェイで最初に上演されたときに、この複雑なストーリーを人々が瞬時に理解できたのか不思議だ。

ところでここで問題です。ストロングオペラファンはミュージカルは聞くでしょうか?

答えはレントはブロードウェイが日本に来たとき5回くらい行ったかな。シカゴはブロードウェイがきたとき通算10回以上聞いたし、ニューヨークでも2回聞いた。ブロードウェイが来たときだとヘヤースプレイに1回行った。これは厚生年金会館だったかな。あと劇団四季は好きでウエストサイド、美女と野獣、オペラ座の怪人など行っている。

そうそうレントでは森山未來が出演した訳詞上演にも行ったけど、これも相当良かった。訳詞上演の是非についてはいつか語りたい。

レントはね、ブロードウェイの実演を見るまでは映画レントだけで、私の評価は低かったんだ。しかし悪いのは映画の方で、余計な場面を挿入するのでつながりが悪くなり、ストーリの把握も難しくなっている。ところが実演を見るとこのミュージカルものすごくつながりが良い。というかこのミュージカルつながりの良さがすべてだよね。よくしたものでブロードウェイのオリジナルメンバーによる実演の中継ビデオが出回っている。わたしはアップルTVで手に入れた。これがとても良い。

レントの音楽はね、フレディー・マーキュリーの曲と同じで中毒性がある。一度聞き始めると頭に響いてしょうがなくなってしまう。

私は特にミミの歌うパートが好きだ。ミミのパートはせつなく心に響く。そうそくの火を借りに来たときのlight my candle、自分のストリッパーとしての生きざまを歌う out tonight 。another day はみんなの合唱が加わるがここのミミのパートを含めた部分にこそレントらしさを感じる、ここでレントの空気感が充満するのだ。goodbye love は静かに歌って欲しい。映画レントでは余計な演出が入ってこのパート台無しになっている。

ロジャーとマークが歌うwhat you own を聞くといよいよ終幕だな終わらないで残念だと強く感じさせられてfinal B でミミが生き返る場面で大円団となる。

ミミはやはりエイズで死んだゲイキャラクターのエンジェルが花畑をミミが歩いているとき、ここに来てはだめ、みんなのもとに帰りなさいと言ってくれて、それで生き返ることができたのだ。こちらのミミは助かるのだ。

このエンジェルはレントでも人気キャラクターだ。劇中エンジェルが死んでみんなで追悼するとき、服飾の才能があり、ある時作った服を翌年にGAPがまねして売り出したみたいなことを言われていた。そこで文句があるのだけど映画のレントでその服飾の才能のあるエンジェルにサンタクロースのコスプレみたいなみっともないかっこずっとさせるのはなぜ?服飾の才能あるものはそんなかっこで町を歩かないでしょ?と強く思う。舞台はしょうがないが映画はあれだけ好き勝手なことやってるんだから、もっと早めにあれは脱がして欲しかった。

ところでまねをしたと言われているGAPはこのミュージカルに抗議はしなかったのだろうか?それとも有名なレントに名前を出してもらうだけ光栄だ、まねしたというのは不問にしようという態度なのか?

私はスカラ座日本公演でクライバー指揮のボエームを聞いている。このボエームという演目は昔っからクライバーの演奏ものの中で一番すごみを感じさせないものなのだ。その時もそういう感想だった。ところがこれを聞いたあと、すくなくとも直後はどのボエームの録音を聞いても耳にきつくて困った。クライバーのボエームの真骨頂はその柔らかさにある。

ケゾえもん



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