※ 2005年、スイスに住んでいたときに別のサイトで公開したものを移動した内容です。
「文化の違い」といってもいろいろありますが、日本人の美徳が理解されない例を挙げてみたいと思います。
▼ 「何を飲みますか」!?
よく挙げられる例ですが、西洋人のお宅を訪問して、「お飲み物は何にしますか?」と聞かれたとき、「なんでもいいです。」と答えると、相手は戸惑います。逆に、西洋人には、「なんでもいいです。」と答える人はまずいません。実際、西洋人には、カフェインを含んだ飲み物(日本茶にも含まれていますよね。)は一切飲まない人、飲めない人、朝だけ飲むと決めている人、そもそも温かい飲み物は好きでなかったり、滅多に飲まない人、炭酸飲料水は飲まない人、オレンジジュースなら飲むけどりんごジュースは飲まない人・・・などなどがふつうにいて、「なんでもよくない」のです。「なにもいらない」ときには、“本当に”いらないし、「水道水」を注文する人も珍しくありません。日本人にとっては、「水だけ!?」と思うところですが、「水でいい」のではなく、「水がいい」のです。
日本人の「なんでもいいです。」の裏には、「何を飲むかは重要ではなく、それを囲んでお喋りするのが重要なのだし、とくにコーヒーが飲みたい人がいるなら、自分もそれに合わせれば、相手にあまり手間をかけずにすむ・・・」などという考えや配慮があるのですが、そんな気持ちはまず理解されません。
▼ 日本人の気配りが嫌がられるとき
トイレがどこにあるのか知っていながら「トイレを使っていいですか。」と聞いて、「だめだと言ったら、どうするの?」と冗談まじりに「なんでそんなばかな質問をするのか」と言われることがあります。日本人は、人のウチに行ったとき、「通された部屋以外は行かないのがマナー」とか、「勝手に冷蔵庫を開けてはいけない」とか教えられているのに、そんな態度自体が「リラックスしてない」とか「堅苦しい、息苦しい」と、否定的にとられるのです。
人を招いた場合は、お客さんの脱いだ靴をきれいに並べて、嫌がられることがあったりします。それはお客さんの靴の脱ぎ方に対する批判のように見えたり、そうでなくてもいちいちそんな細かいことに気を配られることは窮屈で居心地が悪い、というわけです。西洋人にスリッパを出して嫌がられる話もよく聞きます。たとえば、「ウチは土足禁止です」と言えば、誰でも靴を脱いでくれますが、「代わりにスリッパをどうぞ」と言われると、彼らはそんな歩きにくいものをはきたくありません。日本人としては、「もし靴下が汚れたらいけないから。」という配慮なのですが、そんなこと、構ってもらわなくて結構、それより、歩きにくいものを無理矢理はかされることがまっぴらごめんなのです。
少し話がそれますが、日本人がスリッパを「スリスリ」と滑らせながら歩く音が大嫌い、鳥肌が立つ!という人もよくいます。これは、音を立てて物を飲んだり食べたりすることと同様に、こちらには少しも悪気がないのに、相手に大きな不快感を与えてしまうことの例でもあります。
▼ 日本人の奥ゆかしさもマイナスの評価を受ける
講義やセミナーの席では、日本人は一般に、気軽にみんなの前で手を挙げて、質問したり意見を言うのが苦手です。こんな態度も、「何を考えているのかわからない。ただ座っているだけで、積極的に参加していない。」と否定的にとられます。日本人は、受け身で講義を聴くことに慣れているし、とくに立派な意見でもないのに、わざわざ人前で言うほどじゃない、とか、個人的な質問をして、他の人の時間を取ってしまうのは申し訳ない、と思っているのですが、そういう態度は歓迎されないのです。
・・・こうした文化の違いは、現地にいると自然に学習できますから、その国の習慣に合わせることはそんなに難しくありません(といっても、人前で、自分の意見を堂々と言うことは難しいですが。)それでも、日本人として、わたしたちが「よかれ」と思ってしている細かい気配りや配慮が通用しないこと、理解されないだけでなく、否定的に取られることさえあるというのは、異文化の中で感じる大きなストレスのひとつではないでしょうか。